~ 歌詞でよむ初音ミク 7 ~ 夢と葉桜

花を忘れようとする葉桜

和風曲タグ。ゆったりとした和の音色に、ミクさんの声の柔らかさや優しさがとてもうまく調和した作品。しかしその歌詞は、余韻だけで成立する大胆な構造をもっています。曲・詞ともに青木月光さん。

 

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流れる川や吹く風がこの身にあたるように、ふっと滲みだしてきた「思い出」。

 

それは「懐かしい思い出」であり「忘れかけた記憶」ではあれど、ありありと思い出されるにつれ「忘れられない言葉」でもあるようです。それがどういった記憶かは明かされず、ただただ「溢れるは涙」。

 

ぬるい風の中、眠れない夜を一人で歩くうち、それが「消したい記憶」だったことが分かっていきます。でも彼女は、それについて具体的に語るつもりがありません。「止まらない涙」。素敵な思い出なのか、悲しい思い出なのか、そもそも語るつもりがないのか、あるいは彼女自身も踏み込みたくないのか・・・

 

しかし、まさにこの「語らないこと」がこの曲のモチーフだと思います。

 

「白い桜の花の季節」は「夢の中にだけ」しかありません。終わってしまったもの。あとに残ったのは「青々と茂る桜の葉」、タイトルにある葉桜だけ。そしてそれらは「何も語りはしない」、と。

 

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では、この「語らないこと」によって際立つのは何でしょう?

 

それは意志に反して現在へと降りかかってくる過去――「舞い散る花びら」に形象される断片的な記憶――の「残酷さ」ではないでしょうか。「刻まれる時間は残酷に ヒトを縛りつけ遊ぶ」。

 

それでも彼女は語ろうとせず、無防備なまま記憶に襲われてただ涙を流すだけです。白い桜のころを想わせない、全く別の姿をしている葉桜のように。空白によって、過去をノスタルジックにしみじみと想起させる秋の落葉とはそこが大きく異なる気がします。

 

ところで、出来上がった歌詞はそんな風に読めるとしても、この苦くて美しい情景を思うにつけ、「その着想は葉桜のほうが先で、そこから場面がひろがったのかも」なんて考えてみたり。勝手な妄想ですよね。

 

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