~ 歌詞でよむ初音ミク 10 ~ 君にアンテナ
淫らにそびえるアンテナと、突然の狂乱
VOCAROCKタグですが、サイケデリックなファンクからノイズミュージックまで取りこんだ緊張感のある一曲。ミクさんの声もかなり歪んでおり、淫靡な暗喩に満ち満ちています。曲・詞ともにFuzzPさん。
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ミクさん曰く、「僕」はアンテナ。その上にたたずむ雲のような「君」。
ぼんやりとよく見えない君の「気になる場所」を探しながら、鍵のようにアンテナを差し込み、ぐりぐりと動かしてみると、その雲からは「ひどい雨」が降り始め、「夜空の雷」が鳴り始める。
こうやって整理すると、言わずもがな男女のアレ、
・・・男性が仰向けに横たわり、女性がその上に座してあれこれ――の描写だと思います。
もちろんミクさんがそんなことを歌っている、ということも、
彼女にアイドルとしてのフィルターを重ね透かしてみれば
なおのことすごくおもしろいのですが、
ここではもう一つ、大事なポイントがあると思います。
それは「僕」のどこか冷めた感情です。
よく聴くと、彼は自分の快楽について、あまり口にしません。
「一人でゆれる君」「一人で騒ぐ君」というように、彼の視線は一歩引いたところにあったりします。
サビの「それをそっと 君へぐっと 空向かって」のあたりは、もしかすると肉体の興奮はピークに近いのかもしれませんが、それも急に退いて「でかいガキが立っていた」で終わり。
ガキとはいわゆる男性器の隠語(息子)なのでしょうが、結局その果て方については歌われません。しかも最後に「・・・なんて」とおどけてみせて、ぐっと心の距離を遠ざけてしまいます。
淫らな比喩の世界だけでなく、このハードボイルドなテイストを加えて初めて、この作品の雰囲気が出てくるのではないでしょうか。
ところが、そこからの唐突なノイズミュージックへの変化。
急激に均衡が崩れるさまは、もちろん音楽的にはすぐ分かることですが、
歌詞的にも上のようなウラオモテ――いかがわしさと冷淡さ――の均衡が崩れていく様子を、重ね合わせられる気がします。
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どちらに崩れたのかは分かりません。
自分の上で揺れる女性への熱狂なのか、それともまったく無関心な別の発狂なのか。
いずれにしても少し病的で不均衡なこころの危うさが顔をのぞかせる瞬間ですが、
そんななか、荒れるノイズ音とミクさんの沈黙を聞いていると、
実は「アンテナ」という形象が、送射するだけのエッチなメタファーで終わらず、図らずも怪電波を受信してしまいかねない先端触覚でもあったという事実に、ふっと気づいて笑ってしまいます。
きっとこの曲にどことなく漂うふざけた感じは、そういう点とも関係しているのかもしれません。