~ 歌詞でよむ初音ミク 13 ~ メテオ
消えゆくものに未来を託すこと
今週は3月11日を迎えるということで。ジャンルを示すタグはありませんが、「ミクトランス」に入るのでしょうか。ミクさんの、人間ではないからこその抑制された声がとても神秘的です。曲・詞ともに、じょんさん。
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ちなみに「メテオ」とは天気予報のことではなく、英語のmeteor(流星)のことです。某ゲームの影響で「隕石」というイメージもありますが、光の尾をひきながら空を落ちていくのが「流星meteor」であり、正体は宇宙の塵だったり小惑星だったりします。そんな流星のうち、大気中で燃え尽きず、地表にまで達したものが「隕石meteorite」。
わたしとしては、この区別を大切にしてみたいと思いました。それは「メテオ=流星」が、「消滅するもの」であり、同時に「光を残すもの」でもあるからです。
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真夜中、ビル群のはるか上空に、流星が迷子のように訪れます。しかし「僕」の待ち人から便りはなく、冷たい北風が吹き抜けるだけ。
ほかの流星でしょうか。「新たに一筋」、雲を紡ぎながら流星があらわれ、やがて目覚めた人々の足音や呼び声が。そんななか「僕」は、「遠い街で同じ雨に打たれ佇んでる」であろう「あなた」に向けて、流星に願いを唱えるのでした。
いくつもの願いを託された流星は、しかしながら大気中に燃え尽きて「あの空を静かに散り行き」消滅してしまいます。
"消えゆくもの、未来を失うものに未来への願いを託す"――この矛盾めいた慣習の、なんと不思議なことでしょうか。
ですが、
同時にそれが残していくものについても、ミクさんは歌っているのです。
流星から「キラキラ 無数の光が生まれて」いくさまを。
まるで「乱れ咲いた花火のように 空を舞う紙吹雪」だと。
後半に畳みかけて羅列される明滅、波紋や残像のイメージも、もしかしたらそれと繋がっているのかもしれません。そこにもうひとつ唐突に連なる、母と子のすがた。やはり消えゆくものが波紋や残像のようにいのちを残し託していくこと…。
そのなかで「僕」もまた、「この身を奪われるときまで 強く ただ強く あなたを想ってる」ことをたしかめるのです。
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流星は消えていきます。
「星屑の泣き声と 耳鳴りが最後に途切れて」・・・。
それでも、というかそのかわりに、
流星はおのれを失いながら「幸せな朝を呼ぶ」――とミクさんは歌うのでした。
テクスト外の情報なので最小限に留めますが、この曲はもともと2011年3月11日の夜に発表される予定でした。言うまでもなく、その昼に東日本大震災が起こります。ためらいのあと、修正を加えて約一週間後に発表されたのがこの曲です。そのことを思い合わせると、「メテオ」という存在に、よりいっそう奥行きを感じられる気がします。