~ 歌詞でよむ初音ミク 14-18 ~ Project DIVA 特集 (1) マージナル / ワールドイズマイン / Last Night, Good Night / 1/6 -out of the gravity- / サイハテ
いよいよ3月24日に新作『初音ミク Project Diva X』(PS Vita)が発売されるので、せっかくの機会ということもあり、歌詞からみた過去のDIVA収録曲をいくつかピックアップしてみようと思いました。
ゲームに採用されるのは基本的に定番曲なので、まとめて取り上げてみるには個人的にも良いきっかけですし、初音ミクをよく知らないという方には一番わかりやすい入り口にもなるかと思います。
とはいえ、扱う作品はほんの一部であり、好みは反映しつつも毎度のことながら歌詞の良し悪しではありません。また『moon』や『メテオ』のように既に取り上げた作品は別としました。
14. マージナル (OSTERさん)
困難があるたびに色を塗り替えるように逃げてきた、という「僕」が、その重ね塗りの下に見出した「隠した絵の具」の堆積。
明るく可愛いポップな曲調に、「七色」「鮮やかな」という表現はありますが、それはそのままの意味ではなく、「混ざり合って濁ってしまったカラー」のことです。「淀んだ空も 千切れた雲も 抱えて僕らがいる」。つまり「七色」とは逆説。
色の種類としては特定できない(マージナル)けれど、それはそれで「そんな悪くない」。「七色」というものを平面的に捉えレインボーカラーとして肯定するのではなく、透過ぎみのレイヤーとしての七色の層を受け止めていくというのがポイントでしょうか。
マージナルさを優しい声で包み込むのは、自らも不完全な存在であるミクさんの最大の魅力の一つだと思います。
15. ワールドイズマイン (ryoさん)
一人称の恋愛ソングがもつ奇妙な制約。それは「相手が出てこない」ということです。よくよく考えれば、一方的に愛を口にしつづけるのはおかしなことで、それを隠すために一人称の恋愛ソングはしばしば内面の独白(相手は不在)という形式を採るわけですが、必ずしもそれが唯一の形式というわけではありません。
この曲もその一つで、「相手が出てこない」ことを逆手にとっています。反応してくれない相手に対し、愛を求めつづけるツンデレガールにミクさんを仕立てることで、一人称の恋愛ソング自体へのパロディにもなっている気がします。
ちなみにミクさんがメディアに出るとき、おそらく最も引用されやすい曲の一つですが、どうもミスリードな使われ方をされていると感じます。「世界は私のもの」というタイトルに、サビの「世界で一番おひめさま」というフレーズ。そしてスクリーン投影された彼女と、「仮想」の存在に熱狂する観客のライブ映像。分かりやすくその異常性をおもしろがるにはうってつけなのですが、そういう曲とは思えません。仮にその文脈で読むとすれば、存在しない彼女が強がりながら一生懸命に反応を求めているという意味でのツンデレでしょうか。
16. Last Night, Good Night (kzさん)
誰かが指摘しているとは思いますが、Last nightとは「昨夜」のこと。
もちろん細かいことは気にせず日本語の感覚でドラマチックに「最後の夜」の「おやすみ」とし、旅立ちや死を想像するのも解釈の幅ですが、あえてそのまま「昨夜」で読んでみるのもありだと思います。
「すやすや夢を見てる」君が目の前にいて、手を握っている。しかし「素敵な朝をもう一度 君と過ごせたら」という希望さえ「想うだけの奇跡」という状況。とはいえ「いつかはむかえる最後」と言うからには、まだ終わりは来ていないようです。
もう一度は不可能、だけどまだ終わってもいない・・・という中途半端な状態となると、あるいは昏睡状態だったりするのでしょうか。
そんな状況に「Last night, Good night」というフレーズを置いてみると、「昨日の夜は『おやすみ』と言い合えたのに」というような未練のなかで、横たわり眠る「君」の手を握っている姿が想像できたりもします。
17. 1/6 -out of the gravity- (ぼーかりおどPさん)
タイトルの「1/6」とは何のことだろう?と思わせておいて、「6分の1」だということ、そしておおよそ月の重力(地球に比べて)のことだと気づかせていく展開。それでもなぜ月の重力?と疑問を残しておいて、そこに行けば「君が抱えてる悲しみ」も6分の1に軽くなるかもしれない、というメッセージが明かされていく・・・タイトルから主題への段階的な繋がり方には、思わず「うまいなぁ」と膝をたたいてしまいます。
しかしもう一つ、この遠回りな繋がり方そのものも、メッセージの一つだということを忘れてはいけない気がします。つまり無理のあるロジックだということ、「子供ダマシ」と分かっているということ。
このポイントがないと、キザなロマンチストで終わってしまいます。要するに「君」のために何かしてあげたいという焦りと無力さ。そこまでがセットになっているからこそ、突拍子もないロジックがいっそう愛おしく思えてくるのだと思います。
18. サイハテ (小林オニキスさん)
ポップ・レクイエムという重要なジャンルを築いた曲ですが、なぜ葬送曲がポップである必要があるのかということを考えるにあたって、「死のどの時点で歌っているか」ということはとても大事なポイントになる気がします。
たとえば、今まさに死を迎えようとしている恋人に、ポップさを結びつけるのはどうもおかしな感じですし(相手の設定次第ではそれも可能ですが)、歌詞のなかでは、「扉が閉まれば(・・・)あなたの煙は」とあるので、すでに死亡したあと、それも火葬場での歌のように思われます。
突発的な病気や事故による即死でないかぎり、死の直前には肉体的にも精神的にもジリジリとした苦しみや不安が付き物です。それは病人自身にも、付き添う者にとっても同じ。
であるからこそ、死は一種の解放でもあるわけで、ポップレクイエムという一見矛盾したジャンルは、この悲しみと救いが絡み合った複雑で静謐な地点を体現しているのではないでしょうか。だとすれば、そうした音楽が、死の直後の時点で歌われたであろう『サイハテ』の歌詞に組み合わされたのは必然的だったのではと思います。