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~ 歌詞でよむ初音ミク 29-33 ~ Project DIVA 特集 (4) ___ 指切り / glow / システマティック・ラブ / はじめまして地球人さん / Starduster 

特集&企画

初音ミク -Project DIVA- F 2nd

旧作DIVAは、これでラストです。ところでこの一連の特集ではいわゆる「VOCALOIDイメージソング」を飛ばしてきたのですが、それはいつか別個でまとめて取り上げようと思っています。また、F2nd収録の『メテオ』については、すでに単独で扱ったので省きました。

 

 

29. 指切り (すこっぷ さん)

 語り手は遊女のミクさん。古代から存在する職業ですが、いわゆる遊郭遊女のイメージは近世以降のもの。この曲の語り手として留意すべきことといえば、遊女は唄や舞に関するインテリだったこと、特に位が上がるほど客に媚びない存在だったというあたりでしょうか。ですから現代の風俗嬢や娼婦に近い存在としての「湯女 (ゆな)」とは区別する必要があります。

 すべてが擬似恋愛の商売のなかで、嘘ではない本気の恋をしてしまった彼女。客に見初められた遊女の「身受け」はよくあったとされますが、とはいえ彼女からすれば、客が望まぬかぎり恋を成就することはできません。貢がせる存在でありながら、身を貰われるのを待つという矛盾、その無力さのなかで真剣な恋をしてしまったとしたら、「あたし以外」「貴方の目に映るものすべて 憎く見えるの」という嫉妬以上の怨念めいた感情も理解できるような気がします。

 そうした擬似恋愛のなかで、必死に確かな愛の約束を得ようとする行為として「指切り」が出てくるわけですが、それは同時に文字通りの自傷行為をも仄めかしています。「指切り」の語源とされるのは、まさに指を切って契りを示す自傷行為であり、極道における「指詰め」と似た精神性を持っているからです。それが持たざる者としての彼女の交渉法であり、やり場のない感情の自己表現でもあるのでしょう。

 

30. glow (keenoさん)

 記憶の中に残った君という傷を抱える「私」、面前では赤く染まった夕暮れが日没で消え、夜になっていく――という情景を描写した作品。なぜ?誰が?といったストーリーテリングはあまり重要でなく、若いという意味も含意する「青い傷」が、「夕暮れの涙が出そうな赤」に滲んで溶けていく、そして暗い紫の「夜」のなかに消えてしまう――という絵画的な色彩のイメージが歌われています。

 glowとは、サイリウム(あるいはペンライト)をglow stickというように、火や煙がなく燃えることを意味します。それはこの曲の場合、ぐっと熱をこめた燃え方であり、閉鎖的な熱のこもり方、火や煙のような外的な表現をもたない内面の葛藤とリンクしているようです。

 「私の中の君を溶かしてしまえ」という想いと、相反する「少しずつ滲む君にぎゅっとしがみついた」という想い。それらが激しくうねりあうさまは、青い傷が、夕暮れの赤に飲み込まれていく情景と照応しながら、まさに彼女の、外には表れない繊細な内面の動きを表しているのだと思います。

 

31. システマティック・ラブ (詞:さつきがてんこもり さん / 曲:かめりあ さん)

 歌詞はさつきがてんこもりさん、曲はかめりあさんです。アーケードのFuture Tone収録曲。語り手は「プログラム」そのもの。擬似人格をもったアンドロイドならまだしも、計算式そのものというのは、人間には歌えないし、歌ったとしても魅力がない曲です。まさに人間ではないミクさんの強みの一つ。

 プログラムが処理しきれない恋という情動的な要素によってシステムエラー、「処理落ち」を引き起こしながら戸惑うさまが描かれています。なんといっても、そんな彼女がうたう愛のことばは、「シグナル」であり「フローチャート」であり「コール」です。その冷たく不器用な表現の仕方に愛おしさを感じずにはいられません。

 もちろんこれはVOCALOIDに限らず、電子音楽からゲームに至るまで情報処理的に作られたものによって「それ以上のリアルな何か」に襲われるという感覚を抱いたことのある人であれば、漠然とではあれ分かることなのではないでしょうか。

 

32. はじめまして地球人さん (ピノキオPさん)

 同じくアーケードのFuture Toneから。ミクさんという非人間的な存在を、ロボット系統ではなく、宇宙人的な系統から捉えて語らせた作品。じじつ、ある種の異邦人であるミクさんからすれば、しょうもないことに一喜一憂する人間は「めんどくさい生物」に映ります。そして彼女は、人間を宇宙のちっぽけな存在と考え、「好き嫌い」や「正解不正解」などの悩みを「くだらない馬鹿話」「忘れかけていたコメディ」として笑い飛ばします。

 しかしながら、同時にそういうアホらしい存在に対する愛しみも忘れていません。それはまさに彼女自身のどこか間の抜けた優しい声が示しているとおりです。間抜けな人間の生のなかに「ささやかな日常のぬくもり」を感じ取るバランス感覚――それは中庸といった賢明な日和見のことではなく――こそ、ピノキオPさんのところのミクさんだと思われます。

 

33. Starduster (ジミーサムPさん)

 extend収録曲。実存をかけた愛の叫びが、宇宙の塵になる瞬間。愛の叫びがちっぽけになればなるほど、大きくなっていく切なさが歌われています。その一瞬の対置法こそ、この曲の重要なポイントではないでしょうか。

 ちなみに、台湾や中国のファンは「愛を 愛を・・・」という部分を大合唱してくれるのですが、そのとき中国語訳はあえて「愛我(アイ ウォー)」と日本語の音に合わせています。とても粋な意訳で個人的には好きだという前提のうえですが、ジミーサムさんのニュアンスはちょっと違うかもと思ったりします。

 日本語の場合、「愛我 (私を愛して・・・)」というほど直接かつ個人的な心情の吐露というよりも、むしろそうした個人的な心情が消失する広大な空間、愛の絶命、愛が私の手を離れて宇宙の塵に消えていく無力さ、といった感覚を含んでいるのではないでしょうか。それが「愛を・・・」という文法的には完結しない途絶感であり、まさに塵として彷徨うStardusterというタイトルがもつ陰影な気がします。