~ 歌詞でよむ初音ミク 34 ~ 罪の名前

「化け物」が犯した罪の名前とは?

2年ぶりに発売された『Project DIVA X』のテーマソング。およそテーマソングらしからぬタイトルや曲調に、寓話的な歌詞――否が応でも興味を惹かれる作品です。長大な作品のため、通常モードでは短縮されており、今作から導入されたライブエディットモードでフルが聴けるようになっています。曲・詞ともにryoさん。

   (※ 6/11追記:ryoさんご本人によって配信リリース、そしてニコニコ動画youtubeに投稿されました。)

 

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いじわるな「運命の女神様」が、生まれたばかりの可愛い赤ん坊に、きまぐれに呪いの魔法をかけます。それは「くぼんだ両目 やせぎすな体」にすること。それによって少女は「化け物!お前は同じ人間じゃないんだよ」と周囲に言われるようになってしまいます。

 

そんな醜い少女を助けたのは、とある盲目の男の子でした。彼は「理不尽な差別」をする連中に対し、おまえらのほうがネズミよりも汚らしい存在だと言い放ち、少女を守ったのです。――彼女は恋に落ちます。目の見えない彼のまえでなら、醜悪な姿をしたわたしも普通の女の子でいられるかもしれない・・・と。

 

ところが運命の女神は、納得しません。そんなキレイごとを言えるのは、盲目だからではないか。少女の醜さを知らないからではないか。そこで残酷なことに、その男の子の視力を回復させてしまいます。皆に「化け物」と形容される彼女のおぞましさをありのまま見せたのです。

 

そして、とどめの一撃として、男の子がプレゼントした白い百合さえもこっそり黒く染め上げてしまったのでした。黒い百合を渡されて、彼女がショックを受けないはずがありません。そう、クロユリとは、ハエをおびきよせる不吉な花なのです。

 

あぁこれはきっと罰なんだ・・・と追いつめられていく彼女。

――しかし、彼女の「罪の名前」とはいったい何なのでしょうか。

 

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彼女が受けるのは、ひたすら「罰」です。

その原因となった罪の名前はいまいちはっきりしません。

 

「世界でたった一人だけの友達」を持ってみたいと思ったせいでしょうか?

「生きることは素晴らしい」と思ってみたいと考えたせいでしょうか?

「身の程知らずに恋を」してしまったせいでしょうか?

 

それらは決して罪ではなく、ごくごく当たり前の行為にすぎません。

要するに、存在しない罪に名前などあるわけもなく、彼女はありもしない罪に苦しめられていたような気がするのです。

 

じじつ、彼女はその男の子 (「あなた」) の言葉によってこのことに気づかされるようです。

「悪夢のような魔法」が解けるには、

「君は普通の女の子さ」というただそれだけの言葉で十分なのでした。

なぜなら"普通の女の子"に、運命が定めるような「罪の名前」の強迫観念を背負わせるほうがおかしなことだからです。

 

欠損や不完全さをもつ者が、それを「罰」だとみなすこと、そしてその原因は自分がなにか「罪」を犯したからだと考えてしまうのは、気持ちとしてはとても分かることです。ですが本当にそれは「罪」なのでしょうか。罪でないとしたら、本当にそれは「運命」なのでしょうか。

 

冒頭の英語部分で、

"It's unpredictable" (それは予言できないのです) というささやきがありますが、

 

彼女自身、まさに欠損や不完全さを背負って生きているミクさんが「運命」への抵抗を歌うからこそ、人間が歌う以上の切なさがあり、また救いもあるように思われるのです。