~ 歌詞でよむ初音ミク 49 ~ コンペイトウシャワー

ささやかな日常のマジックリアリズム

「かわいいミクうた」タグ。Future Bassはいかついドラムンベースがキラキラ&お洒落になったという感じでしょうか (雑な認識でごめんなさい)。ここではさらにふわふわ感が加わって、ファンタジックな情景を切りとった作品になっています。曲・詞ともにシカクドットさんです。

 

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ひいきのパン屋さんへ、ベーグルを買いに行ったときのこと。

出掛けるまえの天気予報は「砂糖の大雨」でした。

 

街へ出かけると、やがて降ってきた「コンペイトウ」。

色とりどりが、ぽつりぽつりと傘を叩きます。

 

甘い雨がビニール傘にあたるリズム。

それを聞きながら歩くのが楽しくて、「ぼく」は足を止められなくなります。

 

コンペイトウが降り積もった石畳の道。

その上を歩くと、「サクリ」と気持ちのいい音が鳴って。

 

複雑な突起が、光を乱反射するからでしょうか、

くるりくるりと移り変わる景色に、コンペイトウの香り。

 

鼻歌を口ずさめば、

コンペイトウが傘のビニールにあたる音も同じようにリズムを刻み、

「ぼく」は誘われるように不思議な街をどんどん進んでいくのでした。

 

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はじめに「ファンタジー」と書きましたが、

この曲のおもしろいところは、それをとりたててドラマチックに歌っていないところだと思いました。

 

不可思議な光景に出くわせば、ついつい語り手はそれを感情的に表現するものですが、

ここではきわめて淡々と描写しています。まるで一つの日常であるかのように。

やはりミクさんも抑制された声でおだやかに歌っています。

 

現実的でない出来事を前にした「ぼく」のスタンス、

文学でいうところの語りの「調子」( toneとかregistre ) の ”平然さ” によって、

 

現実にはありえないことが、自然なことのようにスムーズに体験され、

逆に現実のほうは、非現実へとちょっぴり拡張されるような、そういうささやかなファンタジーになっているのではないでしょうか。

 

非現実を写実的に描くマジックリアリズムという手法がありますが、

むしろ南米文学のような歴史と土着性の交錯したドロドロさとは対極の、

控えめでかわいいポップな幻想が、Future Bassの楽曲にぴったりだと感じました。

 

言葉のイメージが音楽になったのか、音楽を体現するように言葉を作ったのか、

わたしには知る由もありませんが、両者が幸せな関係にあるのは間違いありません。 

 

でもミクさん。コンペイトウが降ってるときに、空を見上げたら危ないよ!