~ 歌詞でよむ初音ミク 50 ~ 真夜中と糸
ロマンチスムを壊すのは、「わたし」かもしれない
「ききいるミクうた」タグ。美しいメロディや和音に、オーケストラのような弦楽の優雅さもあって、とても聴き心地の良い曲です。ミクさんとしても、彼女が一番気持ちよさそうに歌える音域という気がします。曲・詞ともにJellyPandaさんです。
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静かな街の「星の見えない夜」にたたずむ「わたし」。
「君」にむかって、そっと一人願いをこめてみる場面が描かれています。「わたしを離さない」よう、「忘れないよう」に・・・。
おそらくベランダにいるのでしょう。
胸をしめつけるような想いが真夜中の空に放たれて、雲に溶けていき、
夜の街に恋の音がひびきます。
そして眠る街に浮かんだ想いは、「暗い夜の隙間に紛れ」ながら、
赤い糸になって、「君」と「わたし」を繋いでいました。
午前二時。
自分の指に絡まったその糸を確かめながら、
恋をしている真っ最中の溢れだしそうな多幸感と、
同時に来るべき二人の未来についての不安が混ざって、
そんな「君」への想いが絡まった赤い糸を、一人ぎゅっと抱きしめるのです。
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こうやって書くと、ものすごくロマンチックな情景が思い浮かぶのですが、
聴けば聴くほど、どうもそれだけではないような気がします。
というのも彼女は、糸が「ちぎれる」ことではなく、「ほどける」ことを心配しているからです。それは「糸がちぎれる」という、二人にはどうしようもない障害とは別物です。
言うまでもありませんが、糸には左右両方に端があります。
その糸が「ほどける」としたら、必ずしも相手のほうだけでなく、自分の側の可能性もあるのです。
曲調もあいまって、ロマンチックで少し切ない歌詞、ぐらいに考えがちですが、
彼女自身にも赤い糸がほどける可能性があるのだとしたら、
“わたしだってどうなるか分からない” というような、なかなかドライな側面も合わせもった歌詞に聴こえてきます。
じじつ、「ほどけないように まだ確かめてる」「いつかはわたしと君を結ぶ糸 ほどけるのかもね」といった言葉は、「君」のほうにも「わたし」のほうにも受け取れます。
そして、自分の気持ちを過度に強調している部分――「伝えたいの わたしは君のこと “ぜったい” 好きだと」「息をするみたいに君が好き “当たり前のこと”」など――についても、自分に言い聞かせているような、自分の未来の不確定さに対する裏返しのようにも思えてくるのです。
もちろん、彼女の「君」への想いに偽りはないはずです。
「終わりたくないの」というのは心からの願いなのでしょう。
でも未来の自分はそうとは限らない。
そこには、二人のロマンチスムを壊すのは「わたし」かもしれない、という緊張感がほのかに感じられないでしょうか。
微温的で情緒的な恋の感情を描いたはずの歌が、
知るや知らずや、自分というものの不確かさをうたった曲にもなっている。
タイトルの「糸」と「真夜中」にはそういったニュアンスもあるのかもしれません。