~ 歌詞でよむ初音ミク 55 ~ まぐろ
解体されなかったマグロのきもち
「みんなのミクうた」タグ。マグロそのものの気持ちになった素朴なミクさんの声に、明るく分かりやすいメロディ。輪唱がとってもかわいいですが、はたして内容はいかに。曲・詞ともにminzooさんです。
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広大な太平洋を高速でぐるぐると回り続けている「まぐろ」のミクさん。
回遊魚は、泳いでいないと呼吸ができないのです。
そこに、遠くから大きな船がやって来ました。
そしてその船が投げた網に、不覚にもひっかかってしまいます。
ミクまぐろは日本へ。漁港での解体ショーに連れていかれたところで、身をよじって暴れたまぐろは、おそらく漁師であろう「君」に、「ナイショだよ」と目配せされて逃がしてもらいます。なぜ逃がしてくれたのかは、あくまで魚の目線で歌われるので分かりません。
ふたたび海に戻されたミクまぐろは、また群れに合流します。
「自由の身」、まぐろはぐんぐん泳ぐのですが、奇妙なことに、心は「うわの空」。
「何か足りないよ」。
海はたしかにきれいなのに、何故か「胸がちくりと」して、「涙 ポロリと」こぼれるのです。
分かりやすいメロディに、やさしい語彙ですが、その内容はどうも不思議です。
というのも危機一髪、マグロの解体ショーで暴れて逃げ出したのに、
「君に会いたいよ」「丘にあこがれるよ」と戻りたがるのは、どういうことでしょう?
ミクまぐろは、いちど死を間近で見てしまいました。
もしかしたら同じく捕まった仲間が解体されるのも見たかもしれません。
死にいったんは肉薄したはずです。
そうして日常の生を支える基盤がズポっと抜け落ちてしまったのではないでしょうか。
それなのに生き延びてしまった。
一度はあきらめた日常に戻ってきても、ふわふわした「うわの空」に感じられるのは仕方のないことです。
ぼんやりとした日々のなかで、まぐろのミクさんは思います。
「君になら 捕まっても良かったかな」。
どうせなら、自分を逃がしてくれた「君」のような優しい人になら・・・。
解体されたとしても、それは単なる無駄死にではないと、ミクまぐろは思いこもうとしています。黒ダイヤと呼ばれ、かなり高い値がつくこと、「寿司にして 食べたらかなりおいしいこと」。
でもそれも叶いません。
実感のない日常を、ひたすら泳ぎ続けて過ごすことしかできないのです。
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広大な海を渡っていくほど、全身が筋肉のまぐろ。
自分の気持ちがうまく整理できず、あまり深刻に考えることもできないまま、ひたすら泳ぎ続ける姿を想像すると、この曲と歌詞がシンプルで明るいことが余計に切なく思われてくるのです。