~ 歌詞でよむ初音ミク 56 ~ ブルーカラー
肉体労働者のミクさん
「お洒落なミクうた」タグ。渋く効かせたベースを軸に小気味いいギターのカッティングなど、さらっとかっこいい一曲。煙草をくゆらせながら、くすんだ日常をおくる肉体労働者 (ブルーカラー) のミクさんに、ハードボイルドな一面が見られます。曲・詞ともに、たま さん。
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おそらく土日も関係のない、金曜の午後。
決して高くはない賃金で、単調なルーチンワークを繰り返す日々。
水槽をみれば溺れたように沈んでいく金魚、
食べ残したアイスクリームは溶け、飲みかけのソーダはぬるくなっています。
どれもこれも不全なものばかり。
遠くで「君」の声が聞こえたような気がしても「何もできずじまい」。
響くハイヒールの音は、きっと自分ではない誰かを待っています。
その日暮らしの自分。その日かぎりの相手をまえに、
むかし流行ったブリットポップに、気のきいた踊りを合わせてみたり。
そうやって何かを劇的に変えることもなく、踊り明かしてまた日が暮れていく・・・。
でもそうした日々を、必ずしも拒んでいるわけではありません。
それなりに居心地もよくて、煙のように「ただただ流されてゆくよ」。
とはいえ、燃えカスとしてこぼれ落ちていく自分のすがたも自覚しているようです。
「灰になってゆくよ 僕らは」。この日々の中でくすぶり溺れて、沈殿していくさま。
そこにはどこか鈍い痛みが伴っています。
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ところで、
よく考えてみると、「灰」と「煙」は対照的ではないでしょうか。
煙草を想像してみるとちょうどいい具合です。
火のついた一本の煙草を吸いこむたび、
くすぶり落ちていく「灰」と、そこから逃れるように空中を漂っていく「煙」。
この上下へ同時に分離していく動きのイメージは、冒頭から見られます。
ブクブクと沈んでいく ”溺れたような金魚” や、"溶け落ちたアイスクリーム" が底にベタっと溜まっていく下方への動き、
それに対して、
”ぬるくなったソーダの炭酸” のジワっと浮かびあがっていく上方への動き。
これは「ブルーカラー」というタイトル自体がもつ分離の動き、
つまり肉体労働者(blue collar)が、空の青み(blue color)を見上げているという構図にも重なるような気がします。
灰となって埋没していきそうな現場労働の日々。しかし、ここには「まだ見ぬブルー」があるように感じて、煙のように目的もなくどこか遠くに流されていこうとする。
「溺れたりしたって (・・・) 流されてゆくよ」と言うあたり、受け身のようにみえて実は一種の抗いでもあるのかもしれません。