~ 歌詞でよむ初音ミク 57 ~ 皐月の雨音
心に閉じ込めた「大切な友達」・・・?
「VOCALOID梅雨入り」タグ。音楽タグ的にはミクトロニカでしょうか。暖かい小雨を思わせる情景に、淡い感情を織り交ぜた作品。一つ一つの丁寧な音に、優しいミクさんの声が加わって、深い癒しをもたらしてくれます。曲・詞ともにメイちゃんPさん。
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「涙を流した季節」が変わっていくなかで、
「優しい思い出」は今もずっと残っている、という彼女のことば。
あの日、彼女は「君の想いに触れた」のでした。
詳しいことは語られていません。
しかしそのとき「不意に涙が溢れ」、「心を閉じ込めた」のです。
「透明な気持ちのままで 君を想い続けたいの」。
透き通った「水色の世界」を、ふたりは一緒に歩いていました。
それは淡い恋を思わせるような二人の記憶・・・
ところがそれは「友達」に対してなのです。
そう、「あなたは大切な友達」。
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おそらく作者が必ずしも意図していなかったであろう意味合いが、
図らずも作品に宿ることは往々にしてあります。
わたしには、
相手が異性なのか同性なのかはさておき、
一線を越えた感情を抱いてしまった「友達」への想いのようにも読める気がするのです。
その気持ちを押し殺すような、自らに言い聞かせるようなことば。
「透明な気持ちのままで 君を想い続けたいの」
「あなたは大切な心の友達」。
皐月とは、もちろん梅雨の季節としての五月 (さつき) のことですが
ツツジの仲間としてのサツキを指す言葉でもあります。
そしてサツキには「自制」という意味が含まれているわけです。
大切な人でありながら、自らの気持ちを抑制した彼女にとって、
「涙を流す季節」と「優しい思い出」とは同じ時間の裏表だったのでしょうか。
そんな繊細すぎて触れがたい「水色の世界」での二人の記憶を覆うように、
優しくおだやかな皐月の雨音だけが響いている・・・。
別にそんなつもりはなかったとしても、
こんなふうにも読めるというように出来あがっているとしたら、
それはいわゆる作品自体が持つ、ふところの深さというものなのかもしれません。