~ 歌詞でよむ初音ミク 58 ~ 思い出にしてやる

行ったり来たりの感情の果てに

「切ないミクうた」タグではありますが、非常にポップでドライなかっこよさがあるお洒落な一曲。ボカロ渋谷系に含まれるのかもしれません。くぐもったミクさんのささやくような声と、美しいコーラスにも惹かれます。曲・詞ともにウエダバジルさん。

 

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突然、別れを切りだされた「あたし」。

でも本当は、以前からうすうす気づいていたようです。

相手にはほかに好きな人ができた、と。

 

だから驚かなかったし、かなしみやとまどいがやってくるのは覚悟していました。

なのにずっと「悪い予感」のまま、現実から逃避していたからでしょうか、

いざ別れを告げられると、彼女の涙は止まりません。

 

「どうして?なんでなの?こんなはずじゃなかったのに」という疑問。

でも「これ以上 無理して引き留めてもしょうがない」ことも分かっています。

 

分かっているけれど、「何も受け入れられなくて」、

冷静になれない自分自身にもとまどう彼女は、

 

「お願い 行かないで」そんなことを言ってみたりするのですが、

言ってみただけで本当は期待もしていません。

 

結局、あまりにあっけない終わりにさからうこともできず、

涙を流したまま、ようやく彼女のほうも「さよなら」という言葉を口にします。

もう追いかけることもしない、「あなた」との時間は終わった思い出にするから、と。

 

そして最後に投げつける言葉は

「ふざけんじゃないわ」なのでした。

 

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理不尽な彼にふりまわされる女の子の心情、と言うとシンプルに聞こえますが、

じっさいに彼女が言っていることは二転三転するほど混乱しています。

 

「驚かなかった」と言いながら、「涙が止まらない」。

「引き留めてもしょうがない」と言いながら、「受け入れられない」。

お願い行かないで と言ってはみたけどもう期待もしていない。

 

たしかに言っていることは混乱しているのですが、

だからこそ、一方的に別れを告げられた側の心情としては、

やたら整然として論理的であるよりも、よっぽどリアルな心の動きだと思います。

 

そして非論理的なスピード感で、相手を見限っていく彼女。

「さよなら」、「もう追いかけることもないわ」、「思い出にする」。

 

極めつけは、最後に唐突に湧きあがる

「ほんと ふざけんじゃないわ」という怒りの感情です。

 

この憤りは、

歌詞の途中では「思い出にするから」とだけ言っていた部分を、

『思い出にしてやる』という曲名に変えてしまうくらい怒っています。

 

タイトルというのは作品外の視点から付けられることが多いのですが、

この曲は、作品内にいるミクさんが泣いたり諦めたり後悔したあとに、怒って殴り書くようにタイトルを付けたんだろうな・・・なんて想像すると、

混乱する彼女の切ないすがたが、いっそう愛おしく思えてきませんか?