~ 歌詞でよむ初音ミク 61 ~ アトモスフィア
愛の救いをもとめる孤独な叫び
ちょうど『カルデネ』について書いていたら新曲が発表されたので。
全体的に高速なテンポに対して、激しく対置されるサビのスローなメロディ。それを高音で絞り出すように叫ぶミクさんの声が独特です。同時投稿の そらるさんver.もあります。曲・詞は、はるまきごはん さん。
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『カルデネ』と同様、文字通りの天文学として厳密に考えるより、一種の比喩として考えたほうがいいかもしれません。
宇宙全体のなかでも最も明るく大きな部類に入る恒星、ベテルギウス。
ベテルギウスは自らの内部で起こる核融合に耐えられず、いわゆる”超新星爆発”を起こして広大な宇宙に甚大な影響を及ぼしかねないと言われているのですが、
この曲のなかでは、すでに「ベテルギウスはとうに死んだ」とされています。
このベテルギウスに「繋いでおいた」かのごとく周囲を公転していた惑星(実際のベテルギウスは惑星をもたない)のような、「メイデー」という少女がいました。
しかしベテルギウスが息絶えたことにより、重心を失ったメイデーは公転軌道から離れていってしまい、「藍の星」の「藍色の街灯」のもとに落下します。
メイデーは、この”藍”の星から、失われた”愛”の叫びを放ちつづけました。
奇しくも「メイデー」という少女の名前は、無線信号 ”メーデー=Mayday” (モールス信号でいうところの「SOS」)と近しい響きをもっています。メーデーとは、仏語 « Venez m’aider ! » ( 助けに来て!) に由来する、まさに救出を求める呼びかけなのです。
愛が救われることを求めながら「しゃがみこんだ少女」は、
ブラウスにも穴が開いてボロボロになるまでやつれているのですが、
ほつれた糸を直してくれる人は誰一人おらず。
メイデーの呼びかけがベテルギウスに届くことはありません。
「藍の星から 離陸した悲鳴なんて」聴こえないし、聴いてもいないのです。
なぜなら、とうにベテルギウスは死んでしまったから。
消失したベテルギウスの跡には、
澄み切った夢のような視界(アイサイト)の虚空が広がっており、
メイデーのむなしい叫びだけが暗闇のなかで響いています。
さて、この曲の最後は、とりわけ理解の難しい部分です。
――「ベテルギウスは知りすぎたんだろう」。
"藍色をしたその愛は、「痛いほどに 偽物」" だということを――
いろいろな受け取り方があるとは思いますが、
“すでに存在しなくなった人への愛は、もう偽物なんだよ“ と、
消失したベテルギウスが、生き残ったメイデーに呼びかけているようにも見えます。
それなのにメイデーは、
偽物であろうと構わない、「正しく無くても良い」と言い張って、
失われた愛をひとり呼びつづけているのだとしたら・・・。
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それがこの曲の、あまりに「痛いほど」の「Rights=真相*」なのかもしれません。
(* 複数形のrightsの特殊用法 = the “rights” of the case)
以上が再構成の一例ですが、ちなみに
アトモスフィア(atmosphere)とは、天体の表面をおおう大気・気体のことです。
大気は光のスペクトルを選別するので、いわゆる星の色を担う部分とも言えるのですが、メイデーが 愛の救いを叫ぶその星の「アトモスフィア」は、歌詞のとおりおそらく「藍色」なのでしょう。