~ 歌詞でよむ初音ミク 67 ~ 退廃快速ランダムデイズ

彼女がデタラメな日々をえらぶ理由

めまぐるしい変拍子・コード進行が不思議なポップさに収束していく一曲。冷徹なまま暴れ回っているようなミクさんの声もあってか、カオスなのに優雅さがあります。曲はミックスモダンさん、詞は灯下はこ、さんです。

 

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「だるだる電波 フィーチャリングする脳内」とあるように、

ハイテンションな明るい電波ソングのように見えるかもしれません。

たしかに彼女のとりとめもない"意識の流れ"は、めちゃくちゃで無軌道です。

「『いま何してる?』って、、、聞かれても。」 そんなこと一々考えて生きてない!

 

ですが、無軌道であること自体にはちゃんと意味がある気がします。

彼女の頭のなかには絶えず「運命」がつきまとっているのです。

「運命 操作 動かしがたい現実だ」「運命 そうさ 逃げられないぜ」。

 

ローマ時代から神秘主義で信仰されてきた永遠を司る「AION (アイオーン)」、

そして文字どおり繰り返し出てくる「運命」という言葉。

彼女の無軌道なふるまいは、これらに反抗しようとしているかのようです。

「わたしの運命だけは わたしが決めたことなんだな」。

 

要するに、彼女は「自由」を確かめようとしており、

それを確かめる手段こそ、ランダム性、でたらめさ、偶然性なのではないでしょうか。

 

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しかしそれだって予定調和の運命では?・・・という懐疑は静まりません。

運命と自由の追いかけっこは泥仕合です。自由に考えた・行動した、と思っていても、後出しジャンケンのように「それも運命だった」という視点は追いかけてきます。

 

後出しジャンケンだということを踏まえれば

運命というものは、それを事前に想定してしまうことによる認識の錯誤だと思うのですが、

 

それはともかくとして、

運命に抵抗しようとする彼女は、おそらく単に無軌道であるだけでは、自由を確かめられなくなるはずです。きっとわざわざ法を犯したり、モラルを犯したりすることになるでしょう。

 

なぜなら、やがてそうでしか自由を確認できなくなってくるからです。自由の問題が、罪の問題とリンクしてくるのは避けがたいことです。じっさい彼女もやはり、血(ヘマトフィリア)だとか毒(POISON)への仄めかしを繰り返しています。だからタイトルにあるとおり、運命に逆らおうとして「退廃」の道を進んでいくのは致し方ないのかもしれません。

 

ですが、そうした運命の束縛を逃れようとする彼女の『ランダムデイズ』には、

「サヨナラサヨナラ」というあっさりした執着のなさも相まって、不思議にも突き抜けた爽快さ、タイトル通りの『快速』さがあります。

 

そんな彼女のでたらめにみえる危なっかしい自由が、結果として、おそらく彼女の知らないうちに鮮やかな軌道を残していること。

それは、この曲のものすごく変則的でスリリングな音楽が、それでいて美しく感じられることの感動に、どこか似ている気がするのです。