~ 歌詞でよむ初音ミク 91-99 ~ ミク視点のVOCALOIDイメージソング (3)

第3回目のVOCALOIDイメージソング特集。ひきつづき「ミクさん視点」「シチュエーションが見える曲」に絞っています。

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たぶんあと一回でとりあえずの区切りになると思います(ミクさんの誕生日が終わるまでに予定分までは進めたい!と思っていたので)。VOCALOID初音ミクというものに詳しくない人にも知ってもらえるように、ものすごく有名な曲も区別なく紹介しているため、ご存知の方には文字どおり「振り返り」ということで、ご了承ください。前回はこちら↓


91. My useless Master (otetsuさん)

 部屋は汚い、髪もヒゲもぼうぼうで、毎日お酒を飲んで二日酔い、友達も彼女もお金もないマスターを叱るミクさん。「そんな曲じゃ埋もれるよ」「歌詞も売れ線もっと狙いなよ」と結構リアリストです。お風呂に入らないマスターを「触らないで」「こっちくんな」と邪険に扱いながらも、寝不足を心配したりと見事なツンデレガール。この後、ルカさんの硬派な楽曲で有名となっていくotetsuさんですが、こうした曲をミクさんが歌っていることはなんだか誇らしいような嬉しい気持ちになります。

 

92. 教えてメロディー (naohironixさん)

 こちらではリリックよりもメロディーを待っているミクさん。ここでの彼女は、痛みを感じられないことを告白しています。わりとこれは重要なことのような気がしていて、彼女は ”共感” を軸にして歌っていないからベタベタとしないというか、過剰演出によって押しつけがましくならないというか、だからこそ余計に伝わるものもあるのではないでしょうか。そんな彼女の生は、機械と紙一重のところにあって、「見つけて 機械の中の私を」とあるように、探して見つけ出さないと生まれないものです。でもそのような地点で歌われることによって、「あなた」が彼女に教えてあげた痛みは、純化してわたしたちに届くのだと思います。

 

93. 教えて!! 魔法のLyric  (ちょむPさん)

 (Remix版)

 マスターにからかわれてイジワルされて怒っているミクさん。「たりないところある私 おもしろがっているのね」。だけど、彼女にはマスターしかいないのです。「もうちょっと優しくしてくれていいじゃない!」。そんなミクさんが求めるのは、電気仕掛けの魔法のリリック。もちろんリズムやメロディあってこその歌ではあるのですが、ここでの彼女は「言葉」という側面を強調しているのがポイントだと思います。音楽に言葉は決して必要不可欠なものではありませんが、だからこそ良く出来た歌詞、音楽の良さを引き出すような歌詞は、作品の魅力を倍増させてくれます。そんな楽しみを高らかに歌った一曲です。

 

94. melody  (mikuru396さん)

 ソフトウェアとしてのVOCALOIDに「メロディ」を与えるとはどういうことか、については色々な受け止め方があって、例えば同じ月に発表された『えれくとりっく・えんじぇぅ』では「" I " (アイ=自我&愛) を教えてくれた」という意味になったりするのですが、この曲では「生命」だという少しSFチックな解釈が与えられています。あなたがくれた「ちいさなメロディ」であっても、「わたしはずっと歌い続ける!」ことができるのはまさに機械だからであって、自我をもった人間にそんなことはできません。しかしこのことが意味するのは、システムエラーによって楽曲データを失ったとき、彼女は死を迎えているということです。そんな彼女の脆く儚い命が歌われています。

 

96. Mikunologie (X-Plorezさん)

 偉い人たちがミクさんの身体をいじくりまわして「スーパーな回路、埋め込んだみたい」。そうして出来上がったのが「ミクノロジーなるもの (what is called mikunologie)」で、いわばテクノロジーでロボット化されたミクさんです。ミクノロジーは空まで飛べて世界を回るのですが、感情がなく、「つまんないけれど」任務を遂行するしかありません。しかし任務とは何なのでしょう。彼女はそんなことより1トンある体重のダイエットに関心があって、何のために任務を負わされているのか、など興味すらなさそうです。個別の任務の先にある目的が歌われていないのは、彼女自身それを認識できていないからなのかもしれません。そこにロボットならではの盲目な悲哀があります。

 

97. もっと歌わせて2107 (ワンカップPさん)

 2107年、マスターが死んだ未来のこと。「あなたの姿が見えない」なかで、100年前に教えてもらった歌をミクさんはまだ歌い続けています。死という概念が理解できないのか、彼女の歌い方には余計な感情もなく、それが逆に切なさを非常に増幅しています。最後になって分かるのですが、「窓から見えるあの大きな惑星 / 昔はもっと青くて  / 四季の美しい小さな島国 / そこであたしは生まれたの」とあるとおり、ミクさんは地球上にいません。地球をどこか別の場所――おそらく別の星の "雨のふらないこの街"――から眺めているのだと思います。

 

98. ヒビカセ (曲:ギガPさん / 詞 :れをるさん)

 真夜中にミクさんやDTMソフトをいじりながら楽曲が作られていくさまを、「寝静まる夜 二人だけの密」として、肉体が重なり合うような少し性的なアナロジーによって描いた作品。ここでのミクさんは「あなたが触れる」指先に、熱を増し、息を響かせ、「あなたの音にまだ溺れていたい」と悶えています。とりわけ興味深いのは、その愛が「怒り」や「叫び」を含んだ激しいものだということです。画面越しという障壁に悲しみながら、彼女の愛の熱には暴走しかねない危うさも感じるところが、暗く乾いた曲の雰囲気に合っているのだと思います。

  

99. ファインダー (kzさん)

 「君だけのファインダーに映る景色は全て 私が歌にするよ」。この曲のミクさんは、「歌わせて」とマスターに頼る曲とは対照的に、マスターにはできないことを積極的にやってあげようとしています。そして、なによりも上手いと感じるのは、人間が "視覚" によってとらえたものを、彼女が "聴覚" という全く別の要素へ拡張していく構図だと思います。それは補い合うことであって、単に人間の代わりに歌っているのではありません。人間が捉えた視覚のファインダーとリンクして、ミクさんの声へと生成していく。そんな2人の感覚の転移を思い浮かべると、なおいっそうロマンチックな繋がりが見えてきます。

 

95. 夢歌いの歌 (鈴掛ヨモギさん)

 夜の谷間に現われて消えていく妖精のような素敵な声のミクさん。ピアノ伴奏だけのバラードで、美しいメロディーが非常に際立っています。ここでの彼女は「この星の人たち」を俯瞰で眺めていて、ビルの屋上だとか、あるいは星にぶら下がって街を見下ろしているような情景を思わせます。夢や希望の光を届けることが「私の生まれた理由」だと思いを巡らせて一人ひっそり歌っているイメージには、見返りを期待しない優しさと同時に、それゆえの埋めがたい孤独もみえて、淋しくもあり美しくもあるのです。