~ 歌詞でよむ初音ミク 100-111 ~ ミク視点のVOCALOIDイメージソング (4)

4回にわたって、合計 "39曲" のVOCALOIDイメージソングを振り返ってきました。そして無事、ミクさんのお誕生日までに39曲分書くことができました。9周年おめでとうございます♪

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VOCALOIDイメージソング」といっても多種多様なので、このブログでは「ミクさん視点」「シチュエーションが見える曲」というフィルターを設定したのですが (この2つの基準については この特集の第1回目の記事 をご覧ください)、これによって意外と一貫して対象曲を絞ることができたような気がします。

 

とはいえ、それでも他にもいっぱい候補がありました。時間的な限界もありますし、わたしの力量不足や趣味の問題で他にも扱えなかった作品はたくさんあります。

 

さらに今回はテーマ外なので除外しましたが、「ボカロP視点」の曲だったり、「メッセージソング」「内省的考察」「問題提起」など、まったく別のアプローチの作品も数多くあって、VOCALOIDイメージソングにとってはそれらも同じく重要なテーマです。

 

というわけでまだまだたくさん素晴らしい曲があるので、ミク好きの皆で教え合って共有していけたら楽しいですね。そして初音ミクについてあんまり知らないという方には、この記事が少しでも入り口になれたら嬉しいです。

前回はこちら↓ 


 

100. ルララ♪ (harunacutePさん)

 普通の女の子のようなミクさん。パソコンに向かってばかりで疲れているのか、うかない顔をしたマスター。「悩み事でもあるの?」と問いかけるミクさんは、マスターを元気にさせるために外に連れ出してお出かけします。そうやって少し元気が出たマスターは、後日ミクさんに告げました。「君の曲が出来た!」。自分の曲を作ってくれていたと知って、嬉し涙を抑えながら彼女はその歌をこっそりとマスターに向けて歌うのでした。なんといってもこの曲が可愛いのは、サビで「ルララ・・・♪ キミをずっと見てる」としか言わない所です。ただ見てるだけ。でもそこに彼女の愛が詰まっているのです。

 

101. 僕はロボット (miksolodyne-tsさん)

 ここでのミクさんは中性的なロボットとして「僕」という一人称を使っています。セラミックのソナーに受信した「誰かの声」を頼りに、その声の「君」のもとへ、あてもなく歩き出したロボット。錆びた足をひきずりつつもこのコンピューターシティにさよならを告げて、「True world」を探しに行ったのです。その道中、流れる景色やまたたく星のリズムに触れると、金属の胸が痛み、凍っていた回路が溶けだして、ロボットは機械仕掛けの声で「life is music」と歌うのでした。加速して溢れ出す電子音の洪水に、自分もロボットになったかのごとく処理しきれない怒涛の感情のようなものを感じて圧倒される一曲です。

 

102. ドレミファミックス (えのやっくさん)

 休日にマスターと音楽を作っていく様子を、お菓子作りにたとえて可愛く歌った曲。一人称は「ぼく」ですが、「うたうよ いつでも呼び出してね」「ときにはなかなかうまくうたえないぼくだけど」などVOCALOID視点なので、少年のミクさんをイメージすればいいと思います。ゲインを上げたりブレスを下げたりリバーブやコンプを利かせて、いったいどんなミックスができあがるのか、聴いてるほうまでわくわく楽しくなってきます。 

 

103.  Calm.  (曲:ミチンさん / 詞: 牛肉さん)

 「VOCALOIDおふとん入り」タグもついている淡く優しいミクトロニカ。静かに光る星々の隙間の暗闇に響くよう、「つたない言葉 抱き締めて歌う」ミクさん。彼女の願いは、「心を繋ぐ声になりたい」、私を待ってる人がいるなら笑顔を届けたい、というささやかなものです。彼女はそれ以上を望みません。むしろ「私は涼やかに消え、みんなの夢の中へと眠る」ことを望むのです。ここには、身体をもたない彼女が「声」を残しながらも、自らの姿は消して去っていくというあり方を思わせるものがあって、「声」だけの存在としてのミクさんの不思議さ、幻想性を感じさせてくれる作品です。

 

104. 恋愛ボーカロイド (犬尾さん)

 マスターの遅くなった帰りを待ちながら一人パソコンのなかで起動できず眠っているミクさん。機械として生まれたはずなのに「どうして 心なんてあるの?」と思い悩み、八つ当たりのように「晴れたら外で歌いたい」と無茶なわがままを言ってマスターを困らせてしまったりします。そんなボーカロイドのただ一つの夢、それはあなたに触れること。ですがそれが叶わない夢だということを、彼女はどこかで理解しているようです。他には「なにもできないけど」、彼女が想いを伝える手段は、歌うことでしかありません。「だからわたしを早く起動してほしい」、そのあいだだけミクさんは愛を成就できるのです。

 

105. Feel you (Osanziさん)

 2014年の英語ミク曲。普通のラブソングとしても聴けますが、マスターに向けて言葉を投げかけているミクさんにも思えてくる作品です。「瞳をとじて」「耳を張って」、ひたすらマスターを感じようとするミクさん。じっさい彼女はマスターを「感じる」し、強く求めるのですが、反対にマスターのほうは「私の心を感じることができるの?」 (Can you feel my heart?) 。彼女が繰り返す問いかけには、鈍くて重い苛立ちや苦しみのようなものがあり、機械のほうが人間に「心」の共感を求めるという逆側からの詰問のようにも思えてきます。ですから "次元の違い" という同じテーマのなかでも、関係性が逆転した曲になっています。

 

106. タイムリミット (North-Tさん)

 10日間だけ起動する体験版のミクさん。迫りくる「タイムリミット」によってマスターとの別れを予感しながら、ふたたび会えることを祈る切なさを歌っています。体験版の心情を歌うという、極めて特殊なシチュエーションを歌にしているのがおもしろいのは言うまでもないのですが、この歌詞が "あえて" 普遍的な別れの場面と見紛うように書かれている点も注目したいポイントです。それによって体験版の試用期間の終了にさえドラマがあることを気づかせるのと同時に、一般的なラブソングに擬態することで、普通の恋愛を大仰に歌っている人間の曲への強烈なパロディにもなっています。

 

107. キミの絵はさいこー (らいふPさん)

 ミクさんからマスターやファンに向けての曲というのは王道で正統派ですが、この曲はミクさんから絵師のみなさんへ向けて、という珍しい曲。太陽のようなキミの絵、深海に潜るようなキミの絵、春風に吹かれるようなキミの絵…どれも大好きなミクさんは、「言葉集めてもうまく言えない」から歌にして伝えようとします。それで出てきた言葉は「キミの絵はさいこー」「イエーイ」!かわいすぎます (笑)。 言うまでもありませんが、あえてサビで一気に語彙レベルを落としたミクさんの言葉は、ごちゃごちゃ御託を並べるよりもむしろ素朴で正直な感じがするのです。

 

108. スケープゴート・アンプリファー (Re:nGさん)

 重くて面倒くさい女のミクさん。見慣れない人にちやほやされて、オモチャにされて簡単に捨てられることを警戒するあまり、「本当は私の事など 興味なんてないくせに」と疑心暗鬼になってしまいました。何度もサビで繰り返される「・・・くせに」には、逆接的な不満や非難の気持ちが含まれていて、その言葉が乱暴になって激しくなればなるほど、彼女が本当は人一倍、愛されたいという気持ちの裏返しだと分かってくるのです。ここでのミクさんの屈折した愛の欲求は、アイドルや風俗嬢が、ときとして人並み以上に純粋な愛に飢えるのとどこか似ていて、とても胸を刺すものがあります。

 

109. 39 (曲: sasakure.UKさん / 詞: DECO*27さん)

 いつもは受け取ってばかりだと謙遜するミクさんが、改めて「感謝」を伝えようとするお返しの歌。ミクさんから皆への「サンキュー」のはずが、それはとりもなおさずミクさんに集う人々同士が伝えあう感謝の言葉となって、彼らがみんなお互いに繋がり広がりを支えあっていることを気づかせていく作品です。その言葉が奇しくも「サン・キュー」で、「なんだかアタシの名前みたい (笑)」とおどけるミクさんは、照れ隠しもあって重苦しい感謝を好みません。あえて「なんかあったら聴きに来てよ 歌うよ」という気軽な口調で伝えることによって、「はじめまして」の人も「久しぶり」の人も区別なく大らかに迎え入れるのです。

 

110. ハミングバード (全全力力さん)

 マスターに対してミクさんが「こっち向いて」とちょっかいを出す曲なのですが、この曲がおもしろいのは、彼女が夢見がちなのにあっさりと執着のないスタンスで、とても爽やかなところです。ロマンチックな感情がないわけではないのですが、ここでのミクさんは「運命の糸が見えたらつまんないかな」と冷静に言ったりします。そして「ゆらゆら空に浮かんで」「ここにいないみたいな気分になって」、まったりした気分でマスターのために「歌うの」。可愛らしいけれど余裕があって、自立した大人の女性のようなミクさんに愛されるマスターさんは幸せ者ですね。

 

111. ハジメテノオト (maloさん)

 「ワタシは言葉って言えない だからこうしてうたっています」。歌という表現手段しかもたないミクさんは、そのかわりに、思っただけ書いただけだったり飲みこんでしまって言うことのできなかった言葉を「音」にする存在です。音にすることで、この世界に "表-現" され、それが今度はいつか「なにか あなたに届く」。しかもこの曲は「初めての音」へ向かう瞬間だけではなく、戻ってくる瞬間も歌っています。やがて時が過ぎ、わたしたちは誰しもが初めての頃を忘れていくのですが、機械である彼女はそれを変わらず歌うことができるのであって、だから彼女は「初めての音」を背負いつづけるのです。