~ 歌詞でよむ初音ミク 117 ~ 涙にさよなら

 彼女はどんな気持ちで歌ってるんだろう

「ききいるミクうた」タグ。初期のミク曲らしいポップスの正統派バラードといった感じで、耳に残る美しいメロディと、細くて高いミクさんの声が切なさを盛り立てる楽曲となっています。曲・詞ともに、ぱきらさんです。

 

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そよ風に揺れたカーテンが、

窓辺に置いてある「あなた」の写真にかかると、

部屋を出て街を歩きたくなる彼女。

 

思い出が詰まった空間が息苦しくなるのでしょうか。

 

でも街に出かけてみたところで、

交差点であなたの「優しい笑顔」にすれ違った気がして、

 

「ずるいよ」という言葉が彼女の口からこぼれ落ちます。

「あなただけ」「ひとり去ってしまったの」です。

 

帰りの公園でひとり、ブランコをこぎながら

二人で過ごした「あの夏」をありありと思い出しては、歩き出せずにいて、

彼女は「本当にバカだよね私」とつぶやきます。

 

「側にいたくて 側にいたくて」、

それでもその想いは「もう叶わない」のでした。

 

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あなただけひとり去ってしまった、という部分から

きっと「あなた」はもうこの世にいないのかな、とは多くの人が感じると思います。

 

わたしもそう思うのですが、個人的にひとつだけ、

「だけどお願い 元気ください」という所がなかなかうまく飲みこめませんでした。

 

――側にいたいけど、叶わない。「だけど」元気ください――

人によっては気にならないかもしれないのですが、

どうして「だけど」なのか、何の対比になっているのか分からなかったんです。

 

そこで考えていたのですが、

ふと、もしかしたら「側にいたくて」というのは、

"生きているあなたの側にいたい" というよりも、

 

"死んでしまったあなたの側にいたい"(後を追いかけて自分も死にたい)

というニュアンスだったりするのかな、と思いました。

死ねなかった彼女に、その想いを叶えることはできないわけで・・・。

 

あなただけ去ってしまうのは「ずるいよ」なんて思ってしまって、

こころはあなたを追いかけて死へついつい向かってしまうのだけれども、

「だけど」生きていかないといけない、生きていくしかない。

 

「だけど」という接続詞は、

「だ (肯定) + けど (逆接)」と、前の文を一部肯定しながら反対を示す言葉です。

「ご飯たべたい、だけど (その気持ちは肯定しつつ) 我慢する」のように。

 

それはちょうど死と生へ、同時に反対に向かって引っ張られる心の迷いのようで、

個人的にはそのほうが「だけど」をすんなり飲みこめる気がしました。

 

もちろん正解があるわけじゃありません。

でもこんなふうに聴いてみると、同じ曲でも別の表情が見えたりするかもしれません。