~ 歌詞でよむ初音ミク 119 ~ あっかんべぇ

抜け出せなくなった残酷な恋の戯れ

「切ないミクうた」タグ。回転しながらせりあがっていくような綺麗なメロディに、苦しそうな高音を絞り出すミクさんが美しく痛々しい一曲。2段階のようなサビがまた素敵です。曲・詞ともに、かしこ。さん。

 

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どこか性的な予感も漂わせる "赤" の連続したテーマ。

ふたりの「鬼ごっこ」は、赤すぎた夕焼けのもと、

イチジクの蜜を舐め、赤い絵の具が絡まるなかで続けられていました。

 

追いかけるのは、「いつも私」。

いつまでも鬼の役で、「あなた」の背中を追いかけたのでした。

 

しかし彼は逃げつづけ、「私」を置いて行くばかり。

 

畦道に一人取り残されて、彼女に呼びかける声だけが響くなか、

黒い服をまとった「あなた」は、陽が沈むにつれて伸びた影に溶けはじめ、

夕闇のなかに徐々に黒く染められながら、誰だかわからなくなって (黄昏=誰そ彼)、

消えて去ってしまう気がするのです。

私のことは "赤色" へと「こんなにも染めたくせに」。

 

だから、そんな「意地悪なあなたが嫌いでした」。

「少し長い前髪も、時折見せる優しさも」、彼女をよけいに苦しめるだけ。

だいきらい――やりきれない想いに引き裂かれて、彼女はその背中に「あっかんべぇ」をするのでした。

 

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「あっかんべぇ」とは、彼女の ”強がり” とも受け取れるかもしれませんが、

わたしはむしろ、愛も憎悪も、両方とも本当の気持ちだと感じます。

 

それはもっと複雑な感情で、両立してしまう愛と憎しみ、

そんな矛盾したこころの動きが繊細に表現されている気がしました。

 

ただ、それが「鬼ごっこ」という仕掛けで歌われるとき、

「私」の複雑な感情を描いているだけ、では留まらないと思うのです。

 

実は、「あなた」もまた共犯関係にあるのではないでしょうか。

彼だって、本気で逃げているわけではありません。

ときどき振り返っては彼女の途方に暮れた姿を確認して喜びを感じ、

「さあさ おいで おいで 鬼さんこちら」と告げるのですから。

 

「私」が追いかけるのをやめたらそこで終わり。

「あなた」が本気で逃げきってしまってもそこで終わり。

だとすると、この恋の戯れはあまりにも脆く微妙な依存関係のなかにあります。

 

ですから複雑なのは、彼女の感情の動きだけでないと思います。

二人の関係そのものだってそうなのです。

 

もちろん「私」の愛憎入り混じった気持ちに感情移入することもできます。

 

でも、一歩引いて俯瞰して「私」を眺めたうえで、

恋の戯れにはまり込んで抜け出せなくなった二人を想像してみると、

 

大嫌いと言いながら鬼の役をやめることができない彼女の「あっかんべぇ」は、

いっそう出口の見えない痛々しいものに聴こえてくるように思うのです。