~ 歌詞でよむ初音ミク 124 ~ 真っ平らガール
どうして真っ平らだと、平凡なんだ!
おそらく「VOCAROCK」タグ。さらっとはずして脱力ぎみなロックに、あんまり主張する気のなさそうな、くぐもった声でシラけた口調のミクさんが可愛くておもしろい一曲です。曲・詞ともに藤本薪さんです。
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「中一の頃から変わらない」、彼女の「胸の大きさ」。
「山がないから 谷間もない」。
慰めの言葉をくれる人もいるけど、それで胸が膨らむわけでもなし。
「空気抵抗のない身体」の「私」なんか見向きもされず、
ちまたに溢れかえっている愛の歌にも縁がありません。
そんな彼女はバンドガール。
バイトしながら「早二年」、ジャズマスターの錆びた弦を張り替えるお金もなく。
まるでそのおっぱいのように「見事に真っ平ら」な毎日で、
貯金もなければ、欲も目標もありません。
楽しくもなく嫌でもないバイトは「チーフのババア 気に入らない」けど――口が悪いです(笑)――、だからといって「辞めてやるほどの気概もない」し。
いっそ身体を売って(「春を売って」)しまおうかとも思うものの、
そんな勇気も覚悟もなくて。
けっきょくそうやって、何かと正面からぶつかったりもしないまま、
ただただいつの日か、自分が劇的に「メタモる」(変わる)日を待ち呆けてきたのです。
でもそんな日はこない。
「中一の頃から変わらないのは 胸の大きさだけですか?」
「本当にそれだけですか?」
そろそろ「待ってる日々に さらばと告げて」走り出さなくちゃいけないな・・・なんて焦りをいっぱいいっぱいに感じていた彼女は、ふと平坦で障害物のない自分の人生が、助走をとるにはぴったりの真っ平らな滑走路にも思えてきたのでした。
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平べったいおっぱいが、平凡な人生を象徴しているようで嫌気がさしている彼女。
もちろん ”あるモノが、意外な何かを象徴している” という面白さがあるのですが、最後まで聴くと、この曲はもう一歩先へ進んでいるような気もします。
わたしはむしろ、
”あるモノが、何かの象徴になりかけて、そこからはみ出してしまう” という面白みだと思いました。
だって「真っ平ら」を "平凡" に結びつけているのは、ほかならない彼女であって、
それって勝手な思いこみじゃないですか?
「平ら」って言ったって、
大きさだったら “平常” という意味もあるし “平均” でもあるし、
おかげで “平和” な人生だし、もしかしたら “公平” で “平等” な証かもしれないんだし、
別にぜんぜん “平気” ですからっ!なんて。
身体のコンプレックスというのは、
自分の嫌な部分を象徴しているように思えてきたり、自分の性格や生き方を飲みこんでしまうような気がしてくると、ものすごく苦しいものになってしまいます。
それって勝手な結びつけかもしれない、と気づかせるところが、
ただの言葉遊びのようにみえて、彼女が向き合うコンプレックスへの一つの答えになっているんだと思います。