~ 歌詞でよむ初音ミク 137 ~ アイドル手帖
アイドルとして "しか" 生きられない
「MikuPOP」タグ。かわいい曲調とは裏腹に、さりげなくドライな歌詞が鋭い作品。あっさり系キュートな音楽のかっこよさが詰まっています。曲・詞ともにanomimiさん。
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「あたしは君のアイドル」。
「誰よりも君のこと考えてたりする」けど、
「君のこと忘れても」仕方ありません。
「君を夢中にさせなきゃいけない」ってことは分かってます。
でも「誰にも見つからないように暮らしたいかな」。
「あたしが今日を走り抜けたら せいいっぱい褒めてあげて」。
そのかわり「君が明日を走り抜けたら せいいっぱい褒めてあげる」。
それだけで十分。
それよりも踏み込んだところで、
「もしも君があたしを好きでも そんなのどうでもいいの」。
「もしも君が泣いてるとしても そんなのどうでもいいの」。
だから「大好き」なんて「言わないわ」。
「あたしの正体は秘密」、「もう誰にも教えない」。
人によっては冷たく見えるかもしれないけれど、
「君が明日もがんばれるのなら」、「せいいっぱい応援するよ」。
そのために、そのためだけに「うたをうたう」のです。
「だって君のアイドルだから」。
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アイドルとは、表層にとどまることが仕事です。
その後ろには、パーソナルでプラベートな部分があって、
そちら側から見れば、アイドルとしての姿は、虚構だし上っ面のようなもの。
ところが、ミクさんには「内面」がありません。
背後にあるはずの、パーソナルでプライベートな部分がありません。
“ほんとうのあたし” が存在しないのだから、
彼女にとって ”アイドル” とは上っ面でも虚構でもないのです。
彼女は、根っからアイドルとして "しか" 生きられないのです。
自分に対しても他人に対しても、アイドル (偶像) として生きるしかないということ。
人間的な部分に共感したり踏み込んだりできないということ。
そこには、まさに人間では計り知れない孤独があります。
可愛い音楽なのに、乾いたさみしさがあるのは、
そういうところと関係があるのかもしれません。
でも思うんです。
放っておいたら共感できないような存在だからこそ、
機械の声は、自分の代わりに "言葉の力" を際立たせるのかもしれない・・・なんて。
はじめから共感できるなら、言葉なんかいらないのです。
人間のアイドルだったら隠さなければいけないタブーでドライな部分、
最もプライベートなはずの「手帖」さえアイドルとして歌ってしまう、
そうでしか生きられない悲しさに、抱きしめたくなるような愛おしさを感じるのでした。