~ 歌詞でよむ初音ミク 143 ~ ルーム
この部屋に2人の世界を閉じ込めたかった
「ミクトロニカ」タグ。甘いミクsweetさんの声でゆったり流れる静かな曲ですが、ずっしりとした深みのある音楽になぜか緊張感がただよう作品です。曲・詞ともに春野さん。
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「深い青」が降りてきた「夜」。
「ひみつのパス」を使って、
「階段を下って」いったその先にある「部屋」で、
「内緒のはなしをしよう」と彼女は言いました。
「肩を抱いて」、「甘い声」を漏らすうち、
やがて、「色を吸った」かのような真っ暗闇の「部屋」に、
「静謐」が訪れました。
そのなかを手探りで確かめ合う2人のあいだには、
「感覚だけ」が、「体温」だけがあったのです。
そこでは、2つの肉体だけでなく、
それぞれの「世界」ごと重なっている気がするのでした。
「ずっとこのまま」で、「許されたいな」。
ところが、ふっと彼女の脳裏をよぎります。
「あんた」は、思いのほか「ひとりの脚で すっとどこまでも」逝ってしまえる、と。
だから、こうしていくら身体が交わり合っても、
けっきょく「焦がれたのは、愛」なのです。
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「内緒のはなし」とは、きっとナイショ話のことではなくて、
言葉のない(いらない)会話、つまり肉体の交わりのことだと思いました。
どろどろになって黙々とお互いを求め合う2人にとって、
真っ暗で「音のない」この空間は、まるで宇宙を思わせるところがあり、
「世界」が溶けだして一つになっていくようだったのかもしれません。
でも、わたしはそんな曲のタイトルが、
あくまで「ルーム」であることに興味をもちました。
それはけっきょく「部屋」でのこと。
音を遮断して、光を消して、作られた間仕切りのなかでの、
限りある出来事だと突き付けられているようで・・・。
そのせいでしょうか。
夢幻的な雰囲気なのに、あまり多幸感を見せない気がするのです。
じっさい、この「ルーム」が有限でしかない空間だからこそ、
そこから "出て行ってしまう" こと、「逝ってしまう」という不安が、
ずっと彼女のこころから離れないままです。
「このまま」ではいられない。
それは小さな空間(ルーム)のなかに、
無限の宇宙を閉じ込めてしまおうとする、無力な愛の幻想のようで、
甘い彼女の声がよけいにもの悲しく感じるのでした。