~ 歌詞でよむ初音ミク 179 ~ 夜行便

「君」は女性ではなくて――

いつもメロディがとても綺麗なバイカPさんは、感情を抽象的に歌うことが多いのですが、この曲はシーンが浮かびあがるようになっています。曲・詞ともに、バイカPさんです。

 

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「見下ろした街」には人々の住む「光がちらつ」いています。

「僕」は「音もなく進む 空の夜行便」のなか。

 

「ポケット」からまさぐり出した一枚の「写真」。

色褪せた写真と、色褪せない記憶。

 

すると機内販売の声が。

「思い出は要りますか?」。記念品か写真かは分かりません。

「値段は張りますが、忘れることはないでしょう。」

 

そんな「搭乗員」の声を聴きながら、物思いにふけるのです。

 

――「 "僕" と "知らない人" が出逢って」 、

そんな二人が「ひとつの時間を過ごして」 、

やがて「何かを失って」しまったという時間のことを。

 

だけど、その代わりに、そのおかげで、

「見つけて掴んだ命」がありました。

 

その命には「特別な名前」をつけて、

「泣き止まない "君" を抱きしめた」のでした。

  

でも「その続きは、その続きは」・・・。

 

「見下ろした街の 光が消えて」いきます。

「音もなく進む 空の夜行便」は上空へ登っていくのでした。

 

「産声を上げて 泣き喚く"君" の」、

「未来をこれから感じて」、「僕」は思うのです。

 

やがて「僕が消えた世界のどこかで」

こんな僕がいっしょに「ひとつの時間を過ごして」

「残せた思い出があればいいな」、と。

 

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綺麗なメロディに、切ない歌詞で、

てっきり恋愛や別れの歌なのかなと思いがちですが、

 

もしもこの「君」が、「赤ちゃん」のことだとしたら、

歌詞としてはなかなか珍しい場面を歌っています。

 

恋愛ソングのようにみえて、

相手の女性のことはほとんど出てきません。

焦点は「君」(赤ちゃん)に当たっています。

 

「僕」と相手の女性、どっちが悪かったのかは分かりません。

もしかしたら「僕」のほうが、都合のいい身勝手なカッコつけ野郎かもしれません。

 

男女のことだから、恋愛にはいろいろあります。

別れることだって。

 

でも生まれた赤ちゃんには何の罪もなくて、

引き離されたその子にやがて訪れる色んな未来――

 (これから「知らない人と出逢って」「沢山の涙を知って」、

  「何かを求めて」は、「無理だと悟った」りするんだろう)

――を、夜行便のなかで案じているような。

 

「その続きは、その続きは・・・」・・・もう知ることができません。

そんな切なさを想像しながら聴いてみるのも良いと思うのです。