~ 歌詞でよむ初音ミク 209-212 ~ ◀︎◀︎ / パノプティコン / 無重力スマートフォン / Fumi

f:id:comaa:20190907193938p:plain

今年から来年にかけて

ミクさんは激動の予感です。

 

とりわけVOCALOIDエンジンをやめるというのは

かなりびっくりなニュースでした(普通に協力関係はつづくみたいです)。

 

個人的にはこっそり『初音ミクTalk』的な、

テキスト読み上げソフトが出たら嬉しいなぁと思ったりしています。

 

では、つづきです!

 

**********

209. ◀︎◀︎(是_ さん)

始まりはびっくりするほど野太い声の低音で低温なミクさん。電子ドラッグ的な情報量が多くてせわしない日常のなか、ぐったりしてそうな声が面白くて可愛くもあります。プツプツと途切れるような短いフレーズで、言葉づかいが汚くなったり、投げやりになったり。深夜に起きたり、お昼に眠ったりと不規則な日々ですが、いつのまに音楽は転調し、高音のミクさんはやがて「まだやれたらなぁ」から「まだやれたかなあ」へと移行します。そして「何時もよりちょっと弾けたかっただけ!!!」などと後悔を叫ぶのでした。タイトルは「巻き戻し」の記号ですし、「あーあ」なんて言いながら、ちょっとずつ元気を取り戻しているかも、と思いながら聴くのも楽しいですね。

 

210. パノプティコン(r-906 さん)

ずっとアナタを見ています、と冷静に語りかける声。非人間的で、他人事のような声です。そしてその声は、アナタが「期待されてない」とか「キライ」とか斜に構えるたびに、『そんなことは思ってもないくせに!』と叫びます。さて、じつはそうやって監視しつづけているのは、他ならぬ「ワタシ」なのでした。「姿見(鏡)の前で中指を立てる」ように、自分で自分を監視し、自分を憎悪しているのです。パノプティコンとは18世紀末に考案された監獄用の監視システム。自分のことを一歩下がって冷静に見つめるとき、それは一種の監視システムなのだとしたら、わたしたちは自分にずっと監視されているのかもしれません。

 

211. 無重力スマートフォン(ねむ さん)

モリーを全消去して、宇宙でひとりぼっちになったミクさん。彼女は「社会を外れ」た「不適合」者なのでした。・・・とか思ってたら、とつぜん圏外から「ミュウジック」を受信したのです!「りんりん」、「ぴぽぱ」・・・。電波曲というと多くの場合、もっとカオスで混乱した感じをイメージしませんか?なんで怪電波なのにこんなに優しいんだろうと考えてみると、それはきっとこの曲のミクさんが社会不適合者だったからだと思います。社会と関係のないところから受信されたコールは、社会の中に居場所のなかった彼女にとってはむしろ救われるような電波だったんじゃないでしょうか。そう思って聴くと、切なさと暖かさに満ちた作品だなぁとよりいっそう感じるのでした。

 

212. Fumi(曲・詞:imieさん / アレンジ:平田義久さん)

「陽の高い明るい夕方」のこと。まだ残る湿度のなか、鳥の鳴き声、虫の羽音、そして遠くでは車の通る音。物思いにふける彼女は、記憶を探ったり、少し考え事をしたり。つかの間だけ、雨音が屋根を叩きました。後悔や逃避を思い浮かべ、だけどすぐにその気持ちも消えていって・・・。そうしてうとうとしていると、気づかないうちに部屋は暗くなり、陽は沈んでいたのでした。遠く街や車の灯りが、季節外れの「蛍火」のように揺らめいています――。この曲では、そんなふうに「時間」がさりげなく、とっても繊細に描かれています。わずかな時の移ろいのなかでさまざまな「文(あや)」を見せる世界が、歌詞という「文(ふみ)」になっていく、それだけで十分ドラマチックなのです。

 

(つづく)