~ 歌詞でよむ初音ミク 218 ~ 月光ラプソディ

始まるからこそ、終わってしまう

美しいメロディーに、しっかりとシーンを想像させる正統派な歌詞。裏声ちっくなミクさんにびっくりするほど調教もトップクラスです。曲・詩ともに、芳田さん。

 

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「深い夜に浮かぶ二人」。

「微かな気配」だけが漂っていました。

 

頭上には、

「暗闇に咲いた花火のような星の欠片」。

 

見とれたふりをしながら

「君の温もり」を手のひらで確かめたのでした。

 

――その瞬間。

 

「夜空きらめいた月」に、

「僕らの吐息」が重なって、

夜のしじまの「波の声」が響きわたり、

「隠していたこの気持ち」が「月の中に」まで満ち満ちて、

心を奪われ「息をすることさえ忘れ」、

二人のすべての「物語」が「回り始めた」のです。

 

・・・だけど、

 

始まってしまえば、いつか "終わり" もやってきます。

始まるからこそ、終わるのです。

 

明日へと、その先へと、二人の思い出は重ねてゆくのに

「どうして寂しい気持ちに苦しめられるの?」

 

君の「優しい温もり」が、

「ひやり冷たい風」にさらわれてゆくような気がするのでした。

 

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「瞬間」を切り取れる歌詞というのは、

まちがいなく才能だし、いつでもドラマチックで感動的です。

 

冒頭の、

「夜空きらめいた月に 息をすることさえ忘れ」という時点で、

そんなささやかな「その時」に聴き入ってしまいます。

 

でもこの曲が素敵なのは、

ただそれだけではありません。

 

「瞬間」とは、

それがやってくると "同時に"、過ぎ去ってしまうものでもあります。

 

美しい瞬間のはじまり "だからこそ"、

締めつけるような終わりの予感。

 

この残酷な裏表があってはじめて、

本当の「瞬間」なのではないでしょうか。

 

「いつか終わりが来る」

「途切れぬよう祈ってる」

「今だけはそばにいて」

 

あんなに幻想的でロマンチックな情景を歌いながら、

こんなに不吉な言葉にあふれているのは、

 

ほかならぬ「その時」について、

この曲がしっかりとを描こうとしている証拠なのだと思います。