~ 歌詞でよむ初音ミク 52 ~ Reminiscence

恋愛をとおして「時間」について歌った曲

オルガンとピアノが並ぶポストミック。感情を失ってしまったような呆然としたミクさんが、恋人との関係が崩壊した一場面を、出来事ではなく心情から切りとっています。曲・詞ともにforuteさん。

 

**********

速度が合わず、すれ違っていく二人の世界。

彼女は、溝がこれ以上埋まらないことを分かっています。

 

「伝えたいことばかり今更浮かぶ」けれど、

夜の静寂を壊して朝が訪れるたび、

「いつもずっと側に居た君」がいなくなったことを確信させられて。

 

「君とずっとどこか繋がってる」というのは勘違いでした。

二人の明日を探してもそんなもの最初から無かった。

二人の未来を一緒に描くのも、今日でもう終わり。

 

そうは思うものの、彼女にはありありと君のすがたが想い出されてしまいます。

それでもいつか色褪せて、過去の思い出と割り切れる日が来るのでしょうか。

 

**********

彼女を苦しめているものは何だろうと考えました。

 

もちろん直接的には「君」がいなくなったことなのですが、

たとえば別れの原因とか、そういったことよりも、

むしろ「時間」の問題に悩まされているような気がします。

 

レミニセンスとは「思い出」「記憶」のことです。

でもこれは意識的に「現在からふりかえって思い出す」ような、

リメンバーでも、リコールでも、リコレクトでもありません。

 

レミニセンスとは、意識したくなくても

「過去のほうに囚われて思い出されてしまう」ような強烈な記憶です。

 

君との過去が「レミニセンス」であること、

それが彼女を苦しめているのではないでしょうか。

 

――あんなに二人の楽しい過去があったのに、どうしてその未来は描けないの?

――「何も変わらぬ過去を 繰り返し思い出して」も、「消えない過去たちを並べて思い馳せ」ても、”明日の空”が、「見えない」「見つからないよ」・・・。

 

あんなにも君との思い出があったのに、

君との未来は無かったのです。

 

**********

でもほんとうは、

そんな君との過去も、

あくまで "現在" の彼女が切り取った記憶だったのかもしれません。

 

無数にある過去のなかで、

君との記憶だけを強化しつづけているのは、

過去に囚われているようにみえて、やっぱり "現在" の彼女ではないでしょうか。

 

だから、

もしも彼女がそこから抜けだせるとしたら、

 

別に君との過去を否定したり忘れることではなくて、

曲の最後にあるとおり、やがて「色褪せて思い出に変わっていく」こと、

つまり過去が基準ではなくなっていくことだと思うのです。

 

彼女にそのときが訪れるまで、

きっとこの曲は「Reminiscence」と呼ばれる必要があるのでしょう。