~ 歌詞でよむ初音ミク 198 ~ パプリカ(PSGOZ ver.)

パプリカという「無関係なもの」

東京五輪の応援ソングとして2018年夏に発表されたこの曲。

2019年の夏に、作詞・作曲された米津玄師さんver.が発表されました。

で、今回は非公式Vtuberのミクさん(編曲:PSGOZさん、映像:lenteさん、通常トーク:すぺくたくらさん)がカバーした、という流れです。

 

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子供たちが歌ったり、上白石萌歌さんが歌ったり、

NHKの「みんなのうた」で流れたりしているので、

正統派でノスタルジックな歌詞って思う人が多いかもしれません。

 

たしかになんとなく全体のイメージは、

断片的によみがえってくる幼いころの記憶という感じで、

 

応援メッセージとか、

戦争を想起させる解釈もあります。

 

でもよく聞いてみると、

 

分かるようでよく分からない歌詞ではないでしょうか?

(じつは米津さんも認めているのですが)

 

むしろその点について考えてみたいと思いました。

 

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わたしが最初に不思議だと感じたのは、

 

サビの「花が咲いたら」、

「種を蒔こう」というところ。

 

「空に種を蒔く」というのはレトリカルなのでさておき、

 

パプリカの種まき自体は、

季節のタイミング的に、開花とは無関係です。

 

ほかにも

「パプリカ」と「ハレルヤ」とか

「いちばん星」を見つけることと「晴れる」こととか

「夢を描いたら」「あなたにとどけ」などなど、

 

どうもこの曲では、

条件文や強調構文や並列が多用されていますが、

いわば上の句と下の句がつながっているようにみえて、

あんまりつながっていない気がするのです。 

 

そういう視点で考えてみると、

 

夏が来て影が立ったとき、ふと「あなたに会いたい」と思ったことも、

 

遊びまわった日差しの街や、

雨のなか泣いていた木陰で、急に「誰かが呼んでいる」気がしたのも、

 

そもそも「パプリカ」というタイトルさえも、

 

基本的に、つながっているようでつながっていない

「無関係な何かにつながる」の構図に満ちています。

 

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わたし的には、

抑揚を抑えたミク声で聴いたとき、

はじめてこの曲が「幽霊」のイメージと重なったのでした。

 

死んでしまった亡霊だとか、あるいは

そもそもこの世にいない幻想だとかまでは分かりませんが、

 

現実世界の外にいるという淋しさ

「無関係」な存在であることの物悲しさ

 

そういうつながっているようでつながっていない淡い切なさを、

このアレンジも相まって感じるのです。

 

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色んなことがオリンピックのような大きな目標に収束していくときに、

(全然違うけれど、その点だけは本人のPVで暗示している戦争なども)

 

その中でふと忘れ去られがちな

小さな「関係のない」幽霊的な存在を感じ取ること

 

無関係なものが、

思いもよらず未来の「種を蒔く」ことだってあるのです。

 

人間とはちがってミクさんが歌うと、

そんな「無関係なもの」側の視点から聴こえてくる気がするのは

ミクさん自身が幽霊的だからなのでしょうか。