~ 歌詞でよむ初音ミク 48 ~ すろぉもぉしょん

風邪をひいた女の子のことば

Project DIVA X 特集のラスト。メロコア的なノリの良い楽曲に、フォークな私小説感のある歌詞。ある種のメッセージソングなのに、語り手は熱を出してぼおっとしているミクさんという、この設定だけでも素晴らしいといえる一曲です。曲・詞ともにピノキオピーさん。

  

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コンビニ弁当を買って部屋でテレビを見ていたら、熱が出ちゃったミクさん。薬を飲んで布団にもぐって目を閉じています。もう死ぬのかなんて参ってしまっていると、走馬灯のように自分の過去が浮かんできました。奇妙なことだけど「どれもが全部 同じ人」なんだな。

 

ハッと気づいたら、薬のせいか汗をかいていたので、ミクさんは寝巻きを着替えます。この曲はまだ1分しか経っていないけれど、時計の針はもう夜の0時。

 

そこでふと思ったのでした。「幼少から老年まで」浮き沈みを繰り返して生きていく人間のすがた。まともな愛をひとつでも届けたいのに、どれもこれも上手くいかないで老いていく。偉い作家さんが "恥の多い生涯でした" なんて自意識過剰に語ってるけど、でもそんなのは「珍しいもんじゃないし 大丈夫だよ」。誰かに言いたいような、自分に言い聞かせるような、そんな言葉が彼女の胸の内に浮かんできます。

 

テレビでは過去と未来ごと変える整形ビジネスの特集をしていました。咳がひどいので水を一杯飲み干して深呼吸。鼻水も止まりません。それでも「また考えた」。過去のいろんな喜怒哀楽、それもぜんぶ時間のなかで「しわの増えた 同じ人」になるんだ。整形とは逆に。

 

丑三つ時 (深夜2~3時ごろ)。もう冷えピタがぬるくなっています。この曲もそろそろ半分を超えました。入学から卒業まで、水面化では色んな自分が喧嘩してきました。それが大人になるにつれ想像力を失って先入観で盲目になって、笑えていたことが笑えなくなったり・・・。でも「そんなもんだよ」。

 

熱は上がりっぱなしでした。苦しくて部屋のなかを「のらりくらり のたうちまわり」、気づいたら「見覚えのない場所に」寝転がっているミクさん。

いろいろ感傷的なことを考えちゃったけど、くしゃみがとまらず鼻づまりの笛をぴーぴー鳴らしてる自分は「馬鹿っぽいな」・・・。

 

そうしてまた意識を失い、朝になると熱が引いていました。外は快晴の青天井。のんきな空のもと、きっと今日も「反省したり 調子こいたり」しながら「のんびり くたばっていく」のでしょう。若さと無垢さで売ってるアイドルだって、やがて下卑た話題でワイドショーを賑わせながら骨になっていく。終わってみれば始まるまえと同じという不思議。

 

始まりと終わりのあいだにある束の間の人生。それは子孫を残すためだとか、「良い人と出会うため」にあるとか言われるけれど、そもそも「良い人ってどんなんかね?」。なにかが出来なかった分だけ「恥の多い生涯」だと言うのなら、そんなもん「どんがらがっちゃんそれそれ」「すっからかんのほれほれ」!

 

だから、とミクさんは思います。「大丈夫だよ、たぶん」。どのみち、"ゆっくり" 終わっていくのです。

 

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この曲を、もしもミクさんが元気で力説するように歌っていたとしたら・・・と仮定してみるのはとても興味ぶかいことです。それでは全然ニュアンスが伝わらない気がします。

 

諸行無常について、ここでの彼女は賢人のように達観して語っているわけではありません。自分もまた時間の波に流されて、とりとめもなくぼんやりと考えているのです。

だからこうやって彼女が考えたことだって、じつは考えても考えなくてもけっきょく時間は過ぎていくのです。そうじゃないと「無常」にはなりません。

 

"ある種" の遠回しなメッセージソングではあるのだけれど、ベタなメッセージになってはいけないというジレンマ。そのためにこそ風邪でぼおっとしているミクさんが語る、という設定が必要だったのではないでしょうか。そう考えると、ほんとうによく出来た歌だなぁと思わされます。