~ 歌詞でよむ初音ミク 1 ~ moon

一つの声に宿った二つの視点

「ミクノ」タグ。月のように、ではなく、月そのものが歌う曲で、幼めな調教も相まってミクさんの優しさが際立っています。曲はirohaさん、詞ははっかさん (とirohaさん) です。

 

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始まりは「きょうはないてるね。かなしいことがあったの?」という優しい問いかけ。同じ場所でずっと見守っているよ、と語りかける「ぼく」。

 

てっきり自分を月に例えたストレートな比喩だと思ってしまいますが、2番に入ると様子が変わります。「ぼく」と言っていた一人称が「私」に、相手の呼び方も「きみ」から「貴方」に。語彙もすこし複雑になっていて、いろいろと1番の歌詞とつながりません。

 

実は、1番と2番では語り手が異なっています。1番は「月」が語り手であり、2番はその月に見守られる「少女」の視点。「月」とは隠喩ではなく、月そのものが歌っていたわけです。そのファンタジーさに気づいたときには、もう心を奪われています。

 

両者の視点はやがて交差し、最後にふたたび彼女を見守る「月」の視点へ。最後の「きみはひとりじゃないよ」という言葉は、単なる恋愛や友情を超えて、もっとスケールの大きな言葉に聞こえてきます。

 

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ところで2番の女の子の言う「貴方」とは誰のことでしょうか。「月」に向けているのかなとも思ったりするのですが(「ときには見えなくても、貴方はいつも傍にいるんだね」)、あるいはシンプルに「男の子(あるいは女の子)」と読めなくもありません。好きな子なのか、友達なのかはさておき。

 

自分としては後者だったらいいな、と思います。「貴方」が「月」を指す場合、月と女の子はお互いに見つめ合う一元的な閉じた関係になります。せっかく二つの視点を設けたのに、これだったらちょっと勿体ないはず。

 

もしも「貴方」が第三者を指しているなら、彼女はその子に語りかけており、そんな彼女に月が語りかけているという構図になって、より奥行きが感じられます。そうすると月の無償の優しさも際立つし、同時にどこか孤独な寂しさも帯びてくるのではないでしょうか。