~ 歌詞でよむ初音ミク 5 ~ 納骨
骨となった「貴方」を愛するということ
幻想狂気曲リンク。重厚で複雑な音のなかにある、ピアノの美しさや少女のようなミクさんの声が、自覚のない狂気を滲み出させている作品。曲・詞ともに擾鸞さんです。
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おのれの生まれ出た母体を「不確かな躰」と呼び、そこから自分たちは「捻り出された」と表現するミクさん。生命への物質的な視線があり、初めからある種の不均衡な危うさを感じさせます。
というのも彼女が「狂おしいほど愛し」た人間は、いまやすでに亡骸となり泥まみれの断片となっているからです。それになおも縋り付きながら、震えがはじまります。
骨となった亡骸に向けて「未 (ま) だだよ」と言う彼女ですが、言葉とは裏腹に、その眼はくらくらと揺らぎ、ぴりぴりと差す光のなかで、胸がくるくると廻るような朦朧とした感覚に陥ります。
そして「私はあなたと一つの骨に成る」。
物体化した死者への過度なシンパシーが、もはや生と死の境目を曖昧にしていきます。
「不完全さの果て」となり果てた骨片。聲が崩れそうになるなかで、恐ろしいことに彼女は零れ落ちたそれをこっそりと舐めます。それが「貴方」の痛みを少しでも取り除くことになれば。
そこに突然のフラッシュバック。
「好きだよ」と言いながら、貴方を「殺した」こと。「ふらふら倒れ」、そして「海に沈む」さま。返り傷を受けて、彼女も心中しようとしたのでしょうか。しかし殺してもなお「きらわれて」生き残ってしまう・・・。
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死者というものは、火葬によって焼き尽くされることで、一気に物体化します。しかし故人への想いが強いほど、急激に物体と化してしまうこの冷酷さは受け入れがたくなる。
そこで人々は、この物体化に慣れていくための時間的な緩衝を設けました。しばらく遺骨を手元に置きながら供養すること。それを経たうえでの別れが「納骨」であり、手元から離し、墓に納めることで故人を物体として受け入れるタイミングです。
しかし彼女は「未だだよ」と言いつづけます。本来ならば死者との最後の決別である「納骨」の儀を、受け入れられないでいます。愛ゆえに生物と物質の均衡が崩れていく・・・、彼女の狂気はそこにある気がします。事実、そんな彼女が欲していることは、「私は貴方と一つの愛に成る」ことなのですから。