~ 歌詞でよむ初音ミク 130 ~ Endless End

すがたを見せない「君」のこと

「VOCAROCK」タグ。短いやりとりで繰り返される言葉が、疾走感のあるベースやギターに駆り立てられて、切ない気持ちになる作品。曲・詞ともにルシュカさんです。

 

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「好きだよ」という君の言葉に、僕は分かってると答えるだけ。

もう「無理なの」?と問われても、分からない。

「バカみたい」と怒った彼女に、僕はゴメンね、とだけ返しました。

 

「それまでの日々を捨て」て、「これからの幸せを願った」僕は、

そんなふうに別れの告げ方を知り、そうやって記憶を過去に流し、

あれはもう想い出となったはずでした。

 

それなのに、

「あれほどの決断を下し」たのに、

 

「今頃逢いたいだなんて」言ってきた君の言葉に、

僕のこころは大きく揺れ動いてしまっています。

 

「いつもそう」なのです。

「繰り返し ぶり返し」「君を愛し」てしまって、

「情けない弱さ」を晒してしまうのです。

 

今は「サヨナラ」と言い合うけれど、 

「学ぶことを放棄した」「哀れな愚か者の結末」はどうなっていくのか。

いまはまだ分かりません。

 

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この曲に現われる「君」のすがたは、

実はカギかっこ付きのセリフだけです。

彼女についての具体的な描写もありません。

あとはすべて「僕」のほうの、胸のうちを語る独白となっています。

 

わたしは、これって面白い効果だなぁと感じました。

 

引用されるだけの「君」の言葉は、前後の文脈がありません。

それは少し乱暴に、「僕」のこころのなかに到来します。

 

だから「僕」にも、聴いているわたしたちにも、

「君」のこころが十分には読めません。

 

たしかに引用されたセリフでは、彼女のほうが弱い立場で、

すがりながら別れを拒んでるように見えます。

 

でも唐突に、

「都合よく苦渋を差し置いて君は 今頃逢いたいだなんて」言い出して、

心を揺さぶられるのは「僕」のほうになっていくのです。

 

少し感傷的でかっこいい男性の、優柔不断でちょっと身勝手な恋かと思いきや、

別れを切り出した「僕」と、引用符でしか姿を見せることのない「君」の立場が、だんだん逆転していく。

 

そんな構造がみえてくると、

案外したたかかもしれない彼女のミステリアスな魅力が立ち上がってきて、

よりいっそうこの作品に奥行きを感じられるのではないでしょうか。