~ 歌詞でよむ初音ミク 146 ~ celluloid

終わったはずなのに始まろうとしている

「ききいるミクうた」あたりでしょうか。余計な感情を見せびらかさないミクさんが、喪失感を見事に表現していて、最初期なのにキャラソンとは一線を画した渋い名曲です。曲・詞ともにbakerさん。

 

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「遠い過去」なのに、

「いつまでも」変わらないまま映し出される、

記憶のなかの「君」と「僕」。

 

ところが、

今じっさいの「君」のすがたは見当たりません。

 

何があったのかは歌われないけれど、

「全て僕のせい」でした。

 

それからは「呼吸さえ 覚束ず」、

「色褪せた」日々を、「長い夜」を、生きています。

 

そのことを「君」に伝えようとしたところで、

「何の意味もない」し、「何も見えない」。

「誰も救われない」し、「何一つ変わらない」。

 

「光が差し込んで歩き出せるのは いつだろう」。

・・・もう「夜明けは来ないよ」。

 

ところが、そんなシニカルな諦めのことばとは裏腹に、

「聴きたい音があるよ」「知りたい事もあるよ」という想いがうずくのでした。

 

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どうしてこの曲は「セルロイド」なんだろう、って思ったことありませんか?

一度も歌詞にはでてこない言葉ですから。

 

もちろん正解なんて考えても仕方ないのですが、

勝手にちょっとこんなことを想像してみたくなりました。

 

セルロイド」自体は、むかしの合成樹脂です。

ふるいプラスチックを想像すれば近いと思いますが、

薄くしてフィルムの素材にもなっていました。

 

なので今も英語の celluloid には、 ”映画” の意味もあって、

要するに、記憶をとどめるものも意味するのです。

 

でもそれだけじゃ、「セピア色の記憶」的な感じで、

ノスタルジーな雰囲気だけ?ということになってしまいます。

 

セルロイドには欠点があって、

有名なのはちょっとした静電気などで発火してしまうことですが 、

でももうひとつ、わたしは ”熱にも弱い” という特性に興味をもちました。

 

セルロイドは熱がこもると、

ゆっくり液漏れをおこしながら、ドロドロに溶けてしまうのです。

 

思えば、この曲には「虚しいだけ」と顔をそむけながらも、

「騒ぎ出す微かな予感」がありました。

「溢れ出す期待」だってあるのです。

 

「聞こえない振り」をしても、

「聴きたい音がある」し、「知りたい事もある」。

 

「強がり」ではあるけれど、

けっきょくは「前だけ見つめている」自分がいて、

「希望なんてなくても 僕は生きてく」のです。

 

本人は諦めてしまおうとしているのに、

なにか心の奥底から ”熱” が仄めき立とうとしていて、

 

その生きる熱量のようなもののなかで、

記憶にこびりついた「君」のすがたが、ゆっくりとぐちゃぐちゃに溶け始めている。

 

――そんな celluloid のイメージを重ねながら聴いてみたりするんです。