~ 歌詞でよむ初音ミク 121 ~ ガールフレンド

裏切りのキラーフレーズ

オルタナティブミック」タグ。ゆったりとしたロックと落ち着いたミクさんの声にまどろむ、恋する女子の不安のなかに、ハッとするような鋭い言葉があったりして、すごくリアルな感じがする一曲です。曲・詞ともに、長門恵さん。

 

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幼い頃から「出来損ない」で「何をしてもダメダメ」で、

自己嫌悪に駆られて生きてきた「あたし」。

それなのに「君」は、優しく抱いてくれました。快楽も知ったのです。

 

深く息をしてみると、あたしの中に残っている「あなたのにおい」。

「何をしてもだいすきで もう おかしくなる夜」。

 

だから、時間が過ぎていくことが「こわいよ」。

あなたが死ぬ日のことを考えたりすると、居ても立ってもいられなくて。

まともに取り合ってくれないし、あっけらかんと笑うけれど、

 

「でもわからないよ」?

明日がやってくるってそういうことだから。

あたしは真剣なのに、それでもまた笑ってる。

 

じゃあさ、

「あたしが先に逝くから はりさけそうな想いをしてくれ」。

「あたしの名前を呼んで はりさけそうな想いをしてくれ」。

 

もどかしい気持ちのまま、とめどない想いが溢れかえって、

彼女の「おかしくなる夜」は今日も更けていきます。

 

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サビで口調の変わる「あたしの名前を呼んで はりさけそうな想いをしてくれ」という部分がとても印象的で、恋愛している女子の言葉としてすごくみずみずしくて魅力的だと思いました。

 

全体の内容が分からなくても、一つのフレーズでぐっと惹きつける表現として “キラーフレーズ” というのがありますが、わたしは個人的に、口調が変わってどきっとするこの部分が当てはまるような気がします。

 

だけどこのキラーフレーズ、全体の流れを裏切るように仕掛けられてはいないでしょうか。ぼおっと聴いていると、どうつながったのか分からないと思います。

 

というのも全体の流れでは、「あなた」にべたべたに惚れちゃって不安に苛まれる彼女のこころが描かれているのですが、 

サビでは急に逆転して、 ”あたしがこれくらい想ってるんだから、あなたも同じ想いをしてくれ” と呼びかけているからです。

 

もちろんそれは惚れた弱みで、苦し紛れの要求ではあるのですが、このサビになってはじめて、彼女はちゃんと自立した自我を持つ大人の女性であって、本当は「あなた」と対等な関係でいたいんだな、というのが分かってきます。

 

そうであるだけにいっそう、彼女のこころのよろめきが可愛らしいわけで、依存している姿だけでなく、もう一つの彼女の姿が見えてきて奥行きが出るのだと思います。

 

べつに歌詞は、論文でもなければ説得するためのものでもありません。いちばん山場にくる言葉が、必ずしも全体の流れを要約すべきだという決まりもありません。キラーフレーズが裏切ることだってあるし、作品を豊かにする自由な仕掛けだと思うのです。