~ 歌詞でよむ初音ミク 118 ~ 不思議な幸せ
ストーカーのミクさんが追いかけているひと
「スナック初音」タグ。そのとおり昭和歌謡っぽくて味のある曲調ですが、クセのある歌詞もまたしっかり歌謡曲テイストです。感情を込めすぎず素直に歌うミクさんが逆に恐ろしく感じます。曲・詞ともにネジPさん。
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色香とともに危険な雰囲気を漂わせる「ピンクの口元」。
彼女は優しく笑顔で微笑んでいるのですが、
恐ろしいことにそこから発せられるのは、「あなた呪うわ 呪うわ」という言葉。
おそらく口元は微笑んでいても、その目は死んでいるのでしょう。
彼女は「あなたのいない世界で 生きていけない」とこぼします。
ですから彼女は「あなた」に付きまとうのでした。
どんな部分を切りとっても全体と同じかたちが見える「フラクタル」図形の不気味さと同じように、どの瞬間にも彼女がいるという恐怖。
「電信柱の陰から あなたを見てるわ」。
そして執拗にストーカー行為を繰り返すミクさんは、
異常な支配欲に囚われた偏執狂(パラノイア)となって、
やがて「私の赤い血で書いた手紙を送るわ」だとか、
「あなたを奪うつもりなら 天使も殺すわ」などと攻撃的な顔を見せはじめるのです。
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さて、彼女がヤンデレなのは分かるとして、
不思議なのは「砕いて混ぜて吸い込んで」というところです。
そうやって注目してみると、
実は彼女、ストーカーとは別の何かについても歌っている気がします。
「ぐにゃぐにゃになるわ」「夢の中」「お伽の国へ」「幻」・・・。
「砕いて混ぜて吸い込んで」って、薬物の鼻からの吸引 (スニッフ) のようにも思えてきませんか?
だとすれば話はすこし変わってきます。
ストーカーと支配欲のテーマに、
薬物使用による幻の愛が混じっているような。
そうなると、もはや「あなた」の存在も怪しいものです。
『不思議な幸せ』というタイトルも不穏なにおいがしてきます。
考えてみれば、薬物によっても生じやすい統合失調症は、
「フラクタル」的なイメージともつながりがあります。
( ↓ 統合失調症が進行していくルイス・ウェインの絵の変化。とくに下部。)
薬物を仄めかし、幻への異常な執着や被害妄想に囚われながら、
「世界はフラクタル」と歌うここでのミクさんには、
もしかすると「あなた」がこんな風に見えていたりするのでしょうか。