~ 歌詞でよむ初音ミク 165 ~ ブラキオ行進曲
時代に合わないもの、場違いなもの
「みんなのミクうた」ならではの、ほのぼのした曲調に、すごく予想外な歌詞が楽しい一曲。DIVAにも収録されて有名な『おはヨーデル』の作者さんですが、ここでもやっぱりとぼけた可愛さのあふれる作品になっています。曲・詞ともに、爆弾ポピーさんです。
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恐竜図鑑にも出てくるブラキオサウルスに憧れるミクさん。
キリンや、ゾウよりもずっと長い9メートルの首。
きっとマンモスやラクダよりも乗り心地が良くて、
そんなに高いところから「眺める世界は どんなに素敵なの?」
と無邪気に、好奇心たっぷりに問いかけています。
・・・と、彼女が想像していると思うかもしれませんが、
じつはこのブラキオサウルス、なんとすでに彼女の目の前にいる設定なんです。
え???
びっくりしますが、
ミクさんは平然とブラキオに乗って街を行進します。
だけど大きすぎるその体は、やっぱり現代の街中では難しいのです。
「ホントは帰したくないの!」
だって、恐竜は「いつかは滅んでしまう」から。
でも「君はここでは生きられないのね」と分かった彼女は、
「時空の歪み」を通じて、「元の世界」へブラキオを送り帰すのでした。
「遠い世界の友」であるブラキオに、
そしてその時代に「想像を絶するドラマ」を生きていた者たちすべてに、
ミクさんは「祝福」を送るのです。
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ミクさんにとって、ブラキオサウルスは大好きで憧れなんだけど、
時代に合わないもの、場違いなものでした。
好きなのに、近づくと場違いになってしまうというのは、
とても切ないことです。
それは、"過去へのノスタルジックな憧れ" が抱える矛盾として、
いろんなものに当てはまるような気がします。
過去の栄光とか、
むかし好きになった人とか、
幼いころの幸せな記憶とか。
この曲のミクさんは、
そんなブラキオをいつまでも傍に置いておくのをやめ、
過去は過去として、送り帰すのです。
過去を美化したり、逆にバカにしたりすることもなく、
「祝福」とリスペクトをしながら。
子供みたいな声で、子供みたいに空想じみた内容を歌うミクさんですが、
じつはとっても大人びた、過去との別れを描いているような気がして、
だからちょっと切ないけど、さわやかな気持ちになるのかもしれません。