~ 歌詞でよむ初音ミク 140 ~ 儚妖ホロウ

余白からだんだん場面が見えてくる

「MikuPOP」タグ。ほんわりした音がものすごく気持ち良いのですが、歌詞のほうは沈鬱としています。それを誇張しない音楽とミクさんの声が素敵な余白を作っている作品です。曲・詞ともに素粒子49さん。

 

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不意に、

「あなたといられない日々」が訪れてしまいました。

彼女は、「一人で歩く準備を始めよう」と懸命にもがいています。

 

でも「今も動けないの私」。

 

「蛍光灯で構わないから」、「雨が降っててもいいから」、

誰かの体温を感じていたい。

 

語り手は一体どこにいるのでしょう?

彼女、何にも言ってくれないんですが、

きっとそこは “コンビニの前” だと思います。

 

「コンビニはいつも いつまでもあるわ」。

それは単に居なくなった「あなた」との対比だけじゃなく、

じっさいに、彼女はそこで立ちすくんでいるんじゃないでしょうか。

 

彼女の冷えきった心にとっては、

今さっきそのコンビニで買った「缶コーヒー」のあたたかみだけで、

思わず「顔までびしょ濡れに」なるくらい泣けてきて・・・。

 

「でも朝は来るわ」。

どこにいたって「明日は始まるの」。

それまで、彼女はそこにいるつもりなのでしょうか。

 

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ところで、もう一つ想像したくなるところがありました。

「家に着いたら終わってしまうから」というところ。

 

もしかすると彼女は「あなた」と同棲していたのかもしれません。

家に帰りついたら、もう誰もいない部屋になっている。

 

そのせいで「今も動けないの」だとしたら、

儚妖と明滅するコンビニの前の蛍光灯のもとで

茫洋として虚ろ(ホロウ)な気持ちのまま固まっている彼女のすがたが、

抽象的な比喩ではなく、もっとリアルに浮かび上がってきませんか?

 

「語り手はどこにいるのか?」というのは、

歌詞を書くにあたっても、読むにあたってもとても大切な要素だと思います。

意味合いもアングルも変わるわけで、歌詞の奥行きがぜんぜん違ってきます。

 

説明的な文章にしてしまえば何でもない場面も、

構成のしかたによって、ドラマを想像させてくれる。

 

そんなとっても味わい深い作品だと思いました。