~ 歌詞でよむ初音ミク 175 ~ 揺らめく森のストロベリー
「ざわめき」のポリフォニー
妖しげに展開する曲調とミクさんの重なる声々のなかで、象徴的な光景と具体的なイメージが混ざりながら見えてくる素晴らしい作品です。曲・詞ともに、Inagiさん。
**********
霧のただよう森の奥ふかく。
うっそうとした草木の枝葉に囲まれて、
ひとりぼっちで耳をすませてみると、
風でざわめく木々、鳥の鳴き声、踏みしめる土や草の音が溢れかえって、
わーっと自分を覆ってしまうような感覚にさせる歌詞です。
そうして同時に流れてくるさまざまな声々の向こうに、
暗い森の奥でぽつりと真っ赤に揺れるストロベリー。
それは秘密の感情のようでもあり、
性的なもののようでもあり、
触れがたい傷のようでもあり・・・。
**********
ポリフォニー(複数の声)という手法は、
「ただ単に声が複数ある」だけでは表面的で不十分です。
視点や主張がバラバラであってはじめて「ポリフォニー」と言えます。
だからポリフォニーを有効に活かせるのは、
狂気(分裂症)とか、葛藤(矛盾を抱えた)などが多いのですが、
この曲がすごく面白いのは、
それを「ざわめき」の感覚に活かしているところだと思います。
しかも「森のざわめき」という、とっても具体的なイメージにも重ねて。
この森の/声のざわめきがあるからこそ、その奥にある、
実っては朽ちて腐りゆくストロベリーの鮮やかさ、そして脆さが
なぜかものすごく切なく思えて、とても感動するのでした。素敵な曲です。