~ 歌詞でよむ初音ミク 175 ~ 揺らめく森のストロベリー

「ざわめき」のポリフォニー

妖しげに展開する曲調とミクさんの重なる声々のなかで、象徴的な光景と具体的なイメージが混ざりながら見えてくる素晴らしい作品です。曲・詞ともに、Inagiさん。

 

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霧のただよう森の奥ふかく。

 

うっそうとした草木の枝葉に囲まれて、

ひとりぼっちで耳をすませてみると、

 

風でざわめく木々、鳥の鳴き声、踏みしめる土や草の音が溢れかえって、

わーっと自分を覆ってしまうような感覚にさせる歌詞です。

 

そうして同時に流れてくるさまざまな声々の向こうに、

暗い森の奥でぽつりと真っ赤に揺れるストロベリー。

 

それは秘密の感情のようでもあり、

性的なもののようでもあり、

触れがたい傷のようでもあり・・・。

 

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ポリフォニー(複数の声)という手法は、

「ただ単に声が複数ある」だけでは表面的で不十分です。

 

視点や主張がバラバラであってはじめて「ポリフォニー」と言えます。

 

だからポリフォニーを有効に活かせるのは、

狂気(分裂症)とか、葛藤(矛盾を抱えた)などが多いのですが、

 

この曲がすごく面白いのは、

それを「ざわめき」の感覚に活かしているところだと思います。

しかも「森のざわめき」という、とっても具体的なイメージにも重ねて。

 

この森の/声のざわめきがあるからこそ、その奥にある、

実っては朽ちて腐りゆくストロベリーの鮮やかさ、そして脆さが

なぜかものすごく切なく思えて、とても感動するのでした。素敵な曲です。