~ 歌詞でよむ初音ミク 47 ~ エイリアンエイリアン
好きになるほど「エイリアン」になってゆく
「VOCAROCK」タグ。強調されたベースやハイハットなどが宇宙人の襲来を告げるようで、追いたててくるような格好良さがあります。殺伐とした突き放した感じと、どことないコミカルさが素敵なバランスの作品。曲・詞ともにナユタン星人さんです。
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「ココロは恋を知りました」。
それは、唐突に始まった恋心。彼女にとっては異星間の交信でした。
いわく、これまではまるで宇宙の迷子だった2人が、
ついにいま遭遇(コンタクト)したのだ、「ナニカが起こる胸騒ぎ」がする...と。
そして彼女は「エイリアン わたしエイリアン」と称しはじめます。
宇宙人のように、未知のパワーでいくらでも「あなたの心を惑わせる」、
「あなたに未体験あげる」ことができる、と言わんばかり。
ところがその割に、よく聞いてみると、
彼女は「わたしエイリアン」「あなたのエイリアン」と言っています。
つまりエイリアン (よそもの) は、「わたし」のほうなのです。
実際、ほんとうは彼女の恋はうまくいっていません。
「重度のディスコミュニケーション」で「タイトロープ(綱渡り)」状態。
相手の「瞳に映らない引力」にヤキモキし、「降りそそぐ無数の隕石」に襲われ、
「気づいてよ!」と心の叫びを発してみたり。彼女は「あなた」にとって、
「エイリアン (よそもの)」のままなようです。
そうこうするうちに、
恋のせいでおかしくなった自分自身こそ、
自分にとってヘンテコな「よそもの」に思えてきて。
「振れる感情」に、眼光は「赤色にキラキラ」し始め、
恋の「超常な混沌」があなたを襲うと信じながら、
グリモワ(魔術書)のように「ひとりきり 夜な夜な空想描く」自分のすがた。
つまり、勝手に「創造」した「現実」を盲信する症状です。
わかってるけど「本能」がそれに「感応」してしまって、
もう「高ぶる気持ち抑えられない!」
おかしいな、「わたしエイリアン」になっちゃってる・・・。
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(1) 「あなた」にとってミステリアスなエイリアンでいたい、と思ったのに、
(2) 恋をした「わたし」のほうがヘンテコなエイリアンになってしまってる。
色んな意味で「エイリアン (よそもの)」になってしまった彼女の、
自分でも戸惑うくらい、切なくも滑稽な恋の混乱ぶりが可愛らしいです。
攻めているようで、追いつめられているような。
ところで、最後に分かるのですが、
(3) けっきょくこんな気持ちにさせる「あなた」だってエイリアンに違いない、
と彼女は言い出します。「あなたは未確認生命体」!
いきなりの反転ロジックがかわいくて笑っちゃいますが、
じつは恋って、人と人を結びつけるようにみえるけれど、
思いどおりにいかない相手のことも、自分のことも、
むしろ「よそもの (エイリアン)」だと思わせてしまう感情なのかもしれません。
「あなたが 好き」なのに、想えば想うほど、
最後には「ふたりはエイリアン (よそもの)」にまでなってしまう矛盾。
そんな悲しい喜劇っぷりを感じながら聴いてみると、
彼女がいっそう愛おしくなると思います。